安倍氏銃撃で誰もが思った「要人警護」の不十分さ 「シークレットサービス」とは何が違うのか

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アメリカも連邦制国家なので国家警察は存在しない。私見ではアメリカ連邦捜査局(FBI)は検事局の特捜部や公安部に近い存在である。そのため国家警察的な役割はいくつもの省庁に分散している。例えば禁酒法時代にアル・カポネの組織を壊滅した「アンタッチャブル」は財務省のアルコール・タバコ・火器および爆発物取締局に所属していた。

シークレットサービスも最初は南北戦争直後に偽札捜査を目的に作られた財務省の組織だったが、20世紀に入ってから大統領警護の任務を行うようになり、1951年に議会によって正式にその役割を任命された。そして2001年に同時多発テロ事件を受けて作られたテロ対策官庁国土安全保障省に移管された。

警護官だけでも3000人はいる

シークレットサービスにはホワイトハウス周辺の警備を行う制服部門に1300人、応急医療技術の提供と、化学・生物・放射線兵器への対処を行う技術部門に2000人が配置され、その他に設立以来の業務である通貨関係の犯罪捜査を行う部門もあるものの、警護官だけでも3000人はいる。

その警備の対象は、
・アメリカ合衆国正副大統領とその一家
・次期正副大統領
・元大統領の一家
・訪米中の各国元首と、同行するその配偶者
・その他の大統領令で定められた個人
ーーなどである。

このようにシークレットサービスは組織も人員も充実し、しかも全国組織である。元大統領の警護も任務に入っている。アメリカでも元大統領を警護するシークレットサービスは1人程度とも言われているが、家族まで含めれば数人はいる。今回、安倍氏は元首相だったとはいえ、与党最大派閥のトップだったことを鑑みると、SPの数はもっと多くてもよかったのではないか、という指摘をしている専門家は少なくない。

なおシークレットサービスになるにはジョージア州の連邦法執行センターで13週間、そして、首都ワシントンにあるシークレットサービス・アカデミーで18週間の訓練が必要になる。その結果として物理的な警護の方法だけではなく、警護に必要な事前の調査の方法や、そのために必要な法的手続き、そして現地警察との協力の方法等を身につける。後述するネット上での情報調査も部分的に含まれる。

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