「最大実力者」安倍氏死去で自民党はどう変わるか 憲法改正、金融緩和で「カリスマ」不在に

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政策面でも安倍氏の発信力は強まっていた。持論の憲法改正を繰り返したうえで、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の台頭を受けて防衛費の大幅増額が必要だと主張。2023年度予算では現在の5兆円余から7兆円に近い水準にすべきだと具体的な金額にまで言及していた。

日本銀行の金融緩和についても、安倍氏は「やめるべきではない」と主張。「日銀は政府の子会社」とも発言している。安倍氏には、アベノミクスの柱である金融緩和が否定されることへの危機感があったとみられる。

第2次安倍政権が7年8カ月に及び、安倍首相は世界の政治指導者との会談を重ねた。その積み重ねもあって、安倍外交が日本の存在感を高めたことは確かだろう。

ロシアのプーチン大統領とは第1次、第2次両政権で計27回の首脳会談を重ね、北方領土交渉の進展をめざした。安倍氏は従来の「4島一括返還」から「2島先行返還」に譲歩して、プーチン大統領の歩み寄りを期待したが、成果は出なかった。国際法を無視してウクライナ侵攻に踏み出したことに表れているプーチン大統領の「本質」を見抜けないまま、信頼関係を構築しようとした安倍氏の「脇の甘さ」があった。

注目される最大派閥の跡目争い

安倍氏の死去を受けて、自民党内はどう動くか。表向きは「当面、推移を見守る」という発言に終始するだろう。だが、政治の底流は動き始める。

まず、最大派閥の跡目争いだ。安倍氏は「ナンバー2」をつくってこなかったので、派閥会長の明確な後継者はいない。

一方で、「自薦組」は多い。下村博文元政調会長、萩生田光一経済産業相、西村康稔前経済再生相ら。松野博一官房長官も候補の1人だ。参院自民党の世耕弘成幹事長は衆院に鞍替えして将来の派閥会長を狙う。会長選びの調整作業で、元会長の森喜朗元首相が登場したりすれば、「旧態依然体質」が批判されることは間違いない。

自民党の派閥は、安倍派以外でも、麻生派と二階派が、それぞれ会長の麻生太郎副総裁と二階俊博前幹事長が高齢のため代替わりが模索されている。菅前首相が独自の勉強会を旗揚げして事実上の派閥活動を始める動きも出ている。安倍派の後任会長選びと各派が連動して、自民党内の派閥再編が動き出す可能性が出てきた。

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