「脱炭素」株主提案、ウクライナ危機で潮流に変化 政策かかわる判断、投資家には不向きとの声

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SECの規制制限の是非は、開示要求も含めて社外からどこまで介入できるかの正当性を問うものとも言える。その行方は今後、機関投資家に影響を及ぼす可能性もありそうだ。

世界中で揺れる判断

足元では、エネルギーの安定供給と脱炭素のバランスの判断は国際的にも難題になっている。

例えば、欧州(EU)。欧州委員会ではウクライナ危機が勃発する前の2月上旬、原子力発電と天然ガス発電を、環境に重大な悪影響を及ぼさないサステナブル(持続可能)な「グリーンエネルギー」に追加認定する案を発表した。

その後のウクライナ危機でエネルギー確保が問題になると、原子力発電回帰のニーズは高まったが、脱原発を進める複数の国は原発に強く反発する。

他方で天然ガス発電のほうは、ウクライナ危機でEU各国とも対立するロシアが、天然ガスの供給を減らしたり止めたりといった揺さぶりを強めている。天然ガスは燃焼時に二酸化炭素を排出するため、もともとEU内では「サステナブルではない」という批判もあった。ここにきて確保そのものが不安定になっている状況だ。

地政学的な事情が複雑に絡んできたグリーンエネルギーへの追加認定案は、7月6日に開かれたEUの欧州議会でこれを「拒否」する動議が決議にかけられたが、賛成278、反対328の僅差で否決された。

ただ、法令の決定プロセスを疑問視する指摘があり、決議の違法性が争われる可能性がある。すんなり受け入れられ、民間投資を活性化できるかは見通せない。

このように、石炭火力発電の代替と目されるエネルギーを取り巻く状況は刻々と変わり、激しく揺れ動く。「脱炭素」に関わる企業の方針や行動の是非を、株主など外部が判断するのはますます困難になっている。

エネルギー危機や、ブラックロックの声明、米連邦最高裁の判断、EUの決議と、今年の6月株主総会では前後に目まぐるしい動きが起きている。国内の「脱炭素」関連の株主提案に実際どれだけ影響するのかはまだ不明だが、鈴木氏は「機関投資家にとっても、(議決権行使の判断を)考え直す機会にはなるだろう」と指摘する。

奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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