論理がわかる人とまるでわからない人の決定的差 人間の非合理さを露呈させる簡単な論理学の問題

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これは「ウェイソン選択課題」(認知心理学者のピーター・ウェイソンが考案したのでこう呼ばれている)の一つで、さまざまな「PならばQ」ルールを使った同様のパズルが65年前から認知心理学の実験に用いられてきた(当初は片面が文字、もう片面が数字のカードで、「片面がDなら、もう片面は3」といったルールで行われた)。

そのあいだずっと人々は、「PならばQ」のルール違反を見つけるために、〈P〉を裏返し、あるいは〈P〉と〈Q〉を裏返してきたが、〈Qでない〉〔Qの否定、すなわち前述の例の「動物だが鳥ではないもの」〕を裏返す人はいつも少なかった。

間違えた人も正解が理解できなかったわけではない。認知反射テストと同じで、説明されると「何で気づかなかったんだ!」と額に手を当てる。だが説明がないと、人の直感は無分別なままで、論理的な判断ができない。

確証バイアスという人間の愚かさ

ここから人間の合理性についていえることは何だろうか? 一般的には、これらの結果はわたしたちに「確証バイアス」があることを明らかにするものと考えられている。確証バイアスとは、自分の考えが正しいことを示す証拠ばかりを求め、間違っていることを示す証拠には目を向けようとしない悪癖のことである。

夢をお告げだと考えるのは、身内の誰かが災難に見舞われる夢を見たあとでそのとおりになったときのことは覚えているが、そうならなかったときのことは忘れてしまうからだ。移民は多くの罪を犯していると考える人は、ある強盗事件の犯人が移民だったというニュースは覚えているが、犯人が移民ではない強盗事件が山ほどあることは考えないからだ。

確証バイアスは人間の愚かさに対してよく下される診断の一つであり、これに対処することは合理性を高めるための一つの目標にもなる。フランシス・ベーコン(1561─1626)は科学的手法を生み出した人といわれているが、そのベーコンがこんな話を書いている。

ある男が教会に連れていかれ、嵐にあいながらも神聖な誓いを立てたおかげで難破を免れた船乗りたちの絵を見せられた。そこで男はこういった。「なんと! でも、誓いを立てたあとで海にのまれた人たちはどこに描かれているんですか?」

ベーコンはさらにこう論じている。「迷信とはそういうものだ。占星術でも、夢でも、前兆でも、神の裁きでも変わらない。迷信のとおりになった出来事については、話すだけでも自慢になるので、人は盛んに取り上げる。だがそうでない出来事については、そちらのほうがもっと頻繁に見られるにもかかわらず、無視して顧みない」

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