インドネシア「国産新車」JR東はどう立ち向かうか 近づく日本製中古車の更新、綿密な対策が必須

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ただ気になるのは、JR東日本からの中古車両が今後減ることはあれど、増える可能性は低いということだ。日本製車両が減少すれば、スペアパーツ供給はもちろんのこと、長年続けてきた技術的支援にも影響が及ぶだろう。折しも、今回の長谷川氏一行の訪問は、シュタドラーINKAインドネシア(SII)による国産通勤電車製造の覚書締結が発表された直後だった。

日本とインドネシアをオンラインでつなぎ実施したヘビーメンテナンスの研修=2022年3月(写真:JR東日本)
コロナ禍でもオンラインで教育を継続、日本の現場から映像を送りメンテナンスの研修を行った=2022年3月(写真:JR東日本)

この点については、「前々からこの日程での訪問スケジュールを組んでおり、単なる偶然」とのことだが、同時に、「まさかこのタイミングで……」と国産通勤電車製造の発表には驚きを隠せなかったようだ。

とは言え、国産の「新型」通勤電車の導入がこれだけ話題として持ち上がっているさなか、JR東日本としても、さすがに見過ごすわけにはいかない。この発表を受けて、「日本の通勤電車の特徴について、弊社のE233系を参考にKCIと議論している旨をKAI本社で伝えた」と長谷川氏はいう。ただ、2022年5月18日付記事「『日本の牙城』ジャカルタ鉄道に迫る欧州勢の脅威」で紹介した通り、SIIとKCIとの間で結ばれた車両導入に関する覚書は、政府官僚立ち合いの下に誓わされた政略的なものであり、これを覆すことができるのか、それが最大の注目点だ。

鉄道当局は日本製「大歓迎」だが…

はたしてKAI側の反応はどうだったのか。長谷川氏によると、「立場上あまり明確には言えないが」と前置きしたうえで、「KAI総裁からはJR東日本の協力を期待している」旨の一般的な回答があったという。しかし、同時に「KAIの本社で総裁に加えKAI、KCI関係幹部が勢ぞろいしてJR東日本のインドネシア担当課長の話を聞いてもらえたことは、われわれに期待していることの表れと感じた」とも付け加えた。

つまり、KAI・KCIとしては、日本製は大歓迎。しかし、今は政府の目があるので動くに動けないといったところだろう。下手なことを言えば、国営企業省から大目玉を喰らう。

実際にこんなハプニングがあった。JR東日本一行がKAI本社を訪問する様子を、新型車両の紹介も含め、KCIの広報がSNSに嬉々として公開してしまった。すると、直後に投稿が削除され、車両に関する部分を伏せたうえで、改めて訪問の様子がアップロードされたのだ。

筆者はてっきりJR東日本側から削除要請をしたのかと思っていたが、そうではないそうだ。となると、KAI、KCIの判断で投稿を消したことになる。よほどセンシティブな話題であるということだ。ただし、この初回投稿をソースとして、一部の現地メディアが、日本製新型車両を導入か?との記事を出してしまうなど、事態は混沌としている。

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