リコーの構造転換(下)-王者ゼロックスも新たな一手で対抗
リコーがMPS(事務機の一括保守・運営管理)強化を打ち出した1月20日。富士ゼロックスMPS担当者の電話が鳴りやまなかった。リコーの動きを察知したゼロックスの米本社から、その問い合わせが相次いだのだ。
ゼロックス/富士ゼロックスグループは、欧米での需要増を背景に、2000年からいち早くMPSをスタート。全世界160カ国のサービス拠点に、サービス担当者8万9000人を置く。09年世界シェアは48%超と、圧倒的である。
顧客数は未公表だが、米AIUや米P&G、日本のSGホールディングス(佐川急便)、豪ニューサウスウェールズ大学、カナダのカルガリー大学など、幅広い層のユーザーに浸透している。
「これまでの経験から顧客資産ができている」と、富士ゼロックスの岡野正樹執行役員は強調する。
MPSの威力、企業内勢力図が一変
このサービスの王者は、MPSの威力を熟知している。
たとえば、JFEエンジニアリングのケース。同社とは長年、複写機など事務機での取引があったものの、すべての複写機600台のうち約1割の60台程度しかゼロックス製品を置くことができていなかった。
そこで、MPSによる印刷業務の効率化を提案したところ、09年11月に横浜など一部の拠点で試験的に導入することに。そして、10年11月、JFEエンジニアリングの国内全拠点(21拠点、6関連会社)で、MPSサービスが本格稼働した。
JFEエンジニアリングにとって、MPS導入で得るメリットは大きい。全国各事業所において同じ出力環境が整ううえ、複写機などの台数を最適化(=縮小)できる。また、出力機器の管理や運用、消耗品の発注業務などをアウトソーシングすることにより、業務の効率化を図ることが可能になった。
同社はMPSにより、「印刷関連コストを年間1億円削減できる」と、見込んでいる。
MPS導入で、JFEエンジニアリング内の勢力図は一変した。総台数は200台に減ったものの、そのほぼすべてがゼロックス製品に置き換わったのだ。
ゼロックスグループは、スタッフの能力向上にいっそう注力する。「日本国内でも、年中トレーニングしている」(富士ゼロックスの遠藤真マーケティング部長)。
研修ツールとしては、「リーン・シックスシグマ」という業務変革手法を取り入れる。この手法を極めていけば、「コンサルテーションの技能、能力が十分につく」(岡野正樹執行役員)との考えだ。
昨年は、アジア地域で年間約20回の研修を実施した。
MPSはグローバル企業向けのサービスのため、中小企業へ展開することは難しい。
そこで、富士ゼロックスは昨年7月、中小企業向けサービスを手掛ける豪州最大規模のMPS会社を買収。続く10月には、中小企業攻略の専門部隊を設置した。
目下、一般的な企業よりも印刷コストがかさむとみられる業種にターゲットを絞り、営業活動しているようだ。
MPS拡充に動くのは、リコーやゼロックスグループだけではない。
キヤノンは世界各地でバラバラだったサービスメニューを09年9月に統一。3年間で約200億円を投資し、販売・サービス担当者の大幅増員や研修内容の整備を図る。
コニカミノルタホールディングスも、全米拠点を持つITサービス会社をこの1月に買収した。軌を一にして、基盤ソフトを共通化したカラーやモノクロの複合機を複数投入。MPS事業の強化に狙いを定める。
印刷業務の簡素化を追求するMPSの受注強化は、事務機市場を自ら縮小することにもなりかねない。それでも、ライバルに自社領域を荒らされるわけにはいかない。新たなステージでの決戦へ--。戦いの火ぶたは切って落とされた。
(梅咲恵司 =東洋経済オンライン)
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