永守重信・日本電産社長--365日、朝から晩まで母に教わった全力疾走(下)
すでに、第1ステップは踏み出した。昨年、独クライスラーからEV駆動系モーターを受注し、EMCの米国工場で生産が始まった。日本電産はインドにも新工場を建設し、15年度の車載モーターの売上高目標は5000億円。現在の主力製品、HDDモーターと肩を並べる金額だ。「売り込み先として特に注目するのは中国メーカー。車載モーターでも、断トツのトップを取る」。来るべきEVの世界的なブームをがっちりつかめば、永守は3兄弟の先頭を切って、“ほら”を現実のものにすることができるかもしれない。
本社の中に“創業工場” 今も続く母と対話
本社ビルはロケットの形をしている。今にも大空に飛び出していきそうなイメージ。いかにも永守好みのデザインだが、ピカピカに磨かれた1階フロアの一角に、さびが浮き、色あせた古いプレハブが建っている。創業当時そのままの工場だ。
「プレハブ内には、若いときの写真も飾ってある。創業時の苦労に比べたら、今の困難なんてどうってことないって。そう思ったら、気分がスッとする」。鉄人=永守の、数少ない癒やしの空間である。
ほっとするのも束の間だ。車載市場、とりわけEV用モーターで覇を唱えようとすれば、永守のハードワークには、これまでとは次元の違う厳しさが加わることになる。
国内外の巨大自動車メーカーは、もちろん、基幹の駆動用モーターは自社生産で、と考えている。そこにいかに食い込み、自動車メーカーとの共同開発体制をいかに構築するか。オレがオレがの、がむしゃら流は通用しない。経営のグローバル化も飛躍的に進めなければならない。
そのすべてを、永守はわれとわが身に引き受ける腹を固めている。