トヨタが「リアル車将棋」に本気で挑む理由 ニコ生との異色コラボ、羽生善治名人も参戦
これをトヨタは本気で引き受けた。豊田章男社長も最終的に承認しており、豊田社長のほか副社長、専務、常務など8人の重役が稟議書にハンコを押している。
裏側にはトヨタのリアルな危機感がある。それは「若者のクルマ離れ」だ。バブル期に「デートカー」という言葉が生まれたように、かつて若者の憧れでありステータスだったクルマ。今は見る影もない。日本国内の新車市場で圧倒的なシェアを誇り、海外でも戦線を拡大するトヨタといえど、ホームグラウンドであるここ日本で将来を担う若者たちからそっぽを向かれたままの事態を放置しておけない。
企画はすぐには進まなかった
とはいえ、リアル車将棋がすんなりと実現したワケではない。
「すごいことを考えるな。面白い」
2014年春にドワンゴからの企画を受けたトヨタ側担当者の第一印象だ。ドワンゴが運営する「ニコニコ動画」は30歳未満のユーザーが全体の6割近くを占める。
テレビをあまり見ないでパソコンやスマートフォンなどで動画を見ている若者たちに、興味本位であってもクルマに関心を持って見てもらえるかもしれない。ただ、担当者の直感では「具現化するのは難しいかもしれない」。すぐに企画が進められたワケではなかった。
一方で、トヨタはテレビCMを使ったキャンペーンやインターネットの活用、ソーシャルネットワーク(SNS)を使った情報発信などに取り組んでいるが、「気持ちの離れた若い人たちにクルマの楽しさを知ってもらうのは簡単ではない」というのが社内の共通認識。「本格的なデジタルマーケティングに取り組まなければならない」という機運が徐々に高まっていっていた。
そんな局面で事態は動いた。2014年秋。トヨタ側は20代の若手担当者を中心として企画を構成。「A3用紙1枚にまとめる」というトヨタの伝統に沿って、企画の狙いや概要、データ、目標の達成度合いを測るKPIなどを上層部に示した。「若者のクルマ離れに一石を投じる」。担当者のプレゼンに対し、バカバカしさと愚直さのバランスが社内でも理解され、企画にゴーサインが出る。