野党が内部留保への課税強化を公約に掲げただけでは、政権交代が起きない限り、今の与党がそれを鵜吞みにするとは考えにくく、実現可能性は低いだろう。しかし、会計検査院が制度の再検討を求めたことの意味は重い。
ただ、内部留保への課税が今の仕組みでできたとしても、上がる税収は1000億円にも満たないものであり、象徴的な懲罰的課税にとどまる。これによって、企業が内部留保を吐き出して、賃上げや設備投資などに回すとは考えにくい。
内部留保への新たな課税は、これまでにも与党内で何度か浮上したが、実現しなかった。特に、ストックの内部留保への課税は、実効性がないと言わざるを得ない。企業が内部留保を取り崩そうにも、それを現預金で留め置いているならまだしも、資金調達の一手段として負債や株式ではなく内部留保を使って、機械設備や関連会社の株式などに充てていれば、それらを売らないと取り崩せない。
さらに、仮に内部留保の現預金部分に課税されることになったとしても、それが事前にわかれば、企業は課税されないように別の資産として保有するだろう。内部留保は減らず、それが賃上げや設備投資にも回らない。
では、参院選後に内部留保への課税が実現に至らなければ、それ以上に企業への課税強化は行われないだろうか。必ずしもそうとは限らない。
内部留保課税は難しいが、法人課税強化は今後の焦点
欧米では、コロナ禍で、法人税率の引き上げに動いた国がある。イギリスでは、2023年4月から、大企業向けの法人税率を現行の19%から25%に引き上げる。アメリカでは、バイデン政権が法人税率を現行の21%から26.5%へ引き上げる方針を示している。
法人税率だけが焦点ではない。岸田内閣が6月7日に閣議決定した「骨太方針2022」では、炭素税も暗に含む「成長志向型カーボンプライシング構想」が盛り込まれた。
加えて、こども政策について、「安定的な財源の確保にあたっては、企業を含め社会・経済の参加者全員が連帯し、公平な立場で、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」と明記された。「企業を含め」とわざわざ書き込んでいる。つまり、企業が支払う社会保険料として子ども・子育て拠出金がすでにあるが、この文言はそれを想起させるもので、法人課税も同然の負担といっていい。
日本では、消費税に対する忌避感が強いが、大企業優遇税制に対する反発も強い。参院選後に、法人課税の強化が行われるのか、目が離せない。
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