企業の内部留保を、バランスシート上の利益準備金とみなすと、わが国全企業(銀行業・保険業を除く)の内部留保は、2000年度末には約194兆円だったが、コロナ前の2018年度末には約463兆円にまで大きく増加していた。そしてコロナ禍で経済活動が制限された中でも増え続け、2020年度末には約483兆円にまで達した(財務省「法人企業統計」に基づく)。過去最高水準である。
企業は、内部留保を貯め込むことには熱心だが、なかなか賃金を上げようとしないという批判が根強くある。この当否は本稿では不問とするが、内部留保批判は、参院選でどう影響するだろうか。
内部留保の増加を、与野党ともに批判しているわけだから、これが選挙の争点になっているとは言い難い。その批判の度合いの違いで、得票に影響を与えたとしても、それはわずかだろう。
共産党は5年間で10%の内部留保課税を主張
野党の中には、選挙公約に、内部留保への課税や法人税の課税強化を掲げている政党がいくつかある。中でも共産党は、資本金10億円以上の大企業の内部留保に毎年2%、5年間で10%の時限的な課税を公約に盛り込んでいる。
実は、わが国においてすでに、内部留保への課税があることは、広く知られてはいない。それは法人税制における「留保金課税」と呼ばれるものだ。
企業が上げた利益(法人所得)のうち、配当などで社外に流出せず留保された金額に対して、10~20%の税率で課税されている。内部留保への課税といっても、すでに溜まっている(ストックの)内部留保ではなく、今年新たに生じた(フローの)内部留保への課税である。
この留保金課税によって、例年2000~3000社の企業から500~700億円の税収を得ている(国税庁「会社標本調査」に基づく)。
もっとも、法人税の課税対象となる法人数が約280万社ある中で、留保金課税されている企業は高々3000社に過ぎない。となると、どんな企業に課税されているのかが気になる。それは、特定同族会社と呼ばれる企業のうち資本金が1億円超の大企業である。
特定同族会社とは、会社の支配者が少数の者に占められていて一定の条件を満たす同族会社である。同じ条件を満たす同族会社でも資本金が1億円以下である中小企業には課税されない。
会計検査院は、「令和元年度決算検査報告」の中で、特定同族会社の要件を満たすが資本金が1億円以下の企業にも、一定の条件で留保金課税を適用した場合、約315億円を徴収できるとの試算結果を示した。
現に徴収できている留保金課税の約半分が、資本金が1億円以下の企業を課税対象から外したことによって徴収漏れとなっている、というわけである。会計検査院は、資本金1億円以下の企業を一律に対象から外している現在の課税範囲の見直しも含めて、財務省に制度を再検討するよう指摘した。
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