「毎日何となく」で飲む人はお酒の怖さを知らない 「なにも考えずに惰性」で飲んでいませんか?

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逆に、「飲酒による損害」は見えません。健康への害、家族の心労、仕事への影響は大きくなるものの、依存が進行するにつれ、「大した問題ではない」と思うようになります。

「減酒/断酒による利益」についても同様です。世の中にはお酒以外の楽しいことがたくさんあるはずなのに、お酒漬けの脳には想像がつきません。アルコールの作用により、知らぬ間に人生の価値観が歪んでいるのです。

このように考えると、正確で客観的な「飲酒による損益収支表」を書くことこそ、減酒を続ける基礎になります。最初はうまく書けないかもしれませんが、それでもよいのです。減酒を続けるうちに、今までは考えもしなかった「飲酒による損害」「減酒/断酒による利益」の空欄が、次第に埋まっていくはずです。

減酒は認知行動療法の1つです

『今日から減酒! お酒を減らすと人生がみえてくる』(主婦の友社)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

現在、うつ病の治療では、認知行動療法が世界的な主流になっています。自分に起こることすべてを悪いほうにとらえる「考え方のクセ(認知の歪み)」を、ワークの繰り返しや実際の行動などを通して修正しながら、回復を目指す治療法です。

明らかなエビデンス(効果があるという証拠)が認められており、うつ病のほか、パニック障害、社交不安障害、強迫性障害など、多くの病気に対して第1選択の方法です。減酒も認知行動療法の1つです。

1 お酒やアルコール依存についての正しい知識を学ぶ
2 お酒によって歪んでしまった物の見方や考え方(認知の歪み)を修正し、飲酒に対する客観的で正しい判断力を取り戻す
3 お酒を飲まない行動を意識的に行うことで、減酒生活の習慣を新しく築いていく
4 実際に減酒生活を送る中で、考え方や感じ方がどう変化したか自己観察をする

このように、段階を踏んで治療を進めます。減酒とは、意志の力だけに頼ってお酒を我慢することではありません。「我慢の減酒」は、短期間はできても決して長続きすることはありません。

我慢の減酒ではなく、認知行動療法の知見を援用しながら「科学的な方法論に基づき無理なくお酒を減らし続けていくこと」が、減酒という新しい方法なのです。

倉持 穣 さくらの木クリニック秋葉原・院長

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くらもち じょう / Jo Kuramochi

茨城県水戸市出身。東北大学医学部卒業。東京医科歯科大学医学部精神神経科、東京都立広尾病院神経科、東京都教職員互助会三楽病院精神科、医療法人社団柏水会初石病院を経て、2014年にさくらの木クリニック秋葉原を開院。

厚生労働省精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医・指導医、日本医師会認定産業医、東京医科歯科大学非常勤講師。

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