若者の「突然退職」を察知、作り笑いに潜む黄信号 傍から見ると「突然」でも顔にサインが出ている

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残る軽蔑感情とは、どのような感情でしょうか。軽蔑感情は、優越感を抱く、不道徳な行為やルールの逸脱を目撃・感知することが原因となって引き起こされます。ケーススタディーの場面では、「上司は、私の有能さをちゃんと認めているのかな」「仕事、(規定以上に)私に振り過ぎ」という心情です。

部下の表情に軽蔑を観たら、優秀であること、頼りがいがあることを明確に認める、というアプローチが大切です。優越感が満たされ、自分の価値を上司が理解しているとわかり、安心します。これがないと、上司は「私の優秀さがわかっていない!」となり、愛想をつかされてしまいます。

近年、部下のマネジメントや健全な組織運営に関して、経験値や時代の流れに任すままではなく、経営学や組織心理学の知見を活かした試みが散見されます。

マズローの欲求階層論、360度評価、経験学習モデル、SL理論、ジョハリの窓、心理的安全性、ポジティブ心理学、マイクロカウンセリング、情動知性(EQ)等々あります。耳にしたことがある、学んだことがある、実際に利用している、さまざまだと思います。こうした知見や方法論を適切な場面に応じて、利用していただくことは有用だと考えます。

部下の感情を正しく理解するために

一方で、種々の知見や方法論の根底にあるのが、人の感情です。どんな方法を用いようとも、人の感情を無視することはできません。「嫌なものは嫌」「好きなものは好き」なのです。

極論すれば、各方法を知らなくとも、部下の感情を理解し、その感情に沿った声がけ、その感情に共感できなくても感情を無視しない。こうした単純なコミュニケーションを心がけるだけで、職場はひと際明るくなり、生き生きとした人間関係が形成・維持されるでしょう。

部下の顔を見ないで、仕事を頼み、仕事を受けとっている、ということはないでしょうか。ご自身の態度を振り返り、部下や大切な方々の表情を気にしてみてください。

※本ケーススタディーは、実在の人物が特定できないように、複数の転職者の退職時に至るまでの心理過程の聞きとりおよび感情と表情の研究知見を統合し作成しています。

清水 建二 株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役

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しみず けんじ / kenji shimizu

1982年、東京生まれ。防衛省研修講師。特定非営利活動法人日本交渉協会特別顧問。日本顔学会会員。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』イースト・プレス、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』フォレスト出版、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』飛鳥新社がある。

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