仮病じゃない!理解されない「気象病」の真犯人 梅雨時は頭痛薬が売れる、「五苓散」も効果あり

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なお、片頭痛に関しては先日、国内では20年ぶりに新薬が発売された。「ラスミジタン」(商品名レイボー)だ。

セロトニン受容体に作用して三叉神経の興奮を鎮める薬として、片頭痛にはこの20年「トリプタン」(商品名イミグラン他)が使われてきた。国内で今回新たに使えるようになったラスミジタンは、それとは異なる種類のセロトニン受容体に作用することがわかっている。

トリプタンにせよ、ラスミジタンにせよ、片頭痛薬は、閃輝暗点が現れた時点で飲む必要がある。

また、私は気象病の患者さんに漢方薬を処方することも多い。痛みのタイプを問わず緊張性頭痛でも片頭痛でも、関節痛でも使いやすいのが、「五苓散」(ごれいさん)だ。

漢方「五苓散」は頭痛薬との併用も可

五苓散は、東洋医学で言うところの「水毒」(水滞)、つまり体内で水の巡りが滞って起きる不調に用いられる。水分の代謝・循環を促し、水分バランスや内耳の働きを整えるので、頭痛や関節痛の他、むくみやめまいなどに効果を期待できる。

熊本大学とロート製薬の共同研究では、五苓散が脳血流量を正常化する作用が発表されている。実験で気圧を50hPa低下させて脳の血流量を調べたところ、何も服用しない人では脳血流量が大きく増え、頭痛との関連が推察された。気圧を元に戻しても、脳血流量は正常値までは低下しなかった。

一方、五苓散を服用した人は増加が小さく抑えられ、気圧を元に戻した後は速やかに脳血流量が正常値まで減少した。ロキソニンも同様に、低気圧下で脳血流量の増加を抑える効果はあったが、気圧を元に戻しても脳血流量は正常値まで戻らなかった。

五苓散を通常の頭痛薬や片頭痛薬と併用することも可能だ。片頭痛には予防薬もあるが、五苓散を予防薬として服用することもできる。

もちろん私の診療経験上、五苓散の効き目がいまいちの人もいる。その場合は体質を見ながら、「真武湯」(しんぶとう)や「呉茱萸湯」(ごしゅゆとう)を、切り替えや併用で試していただいている。どちらも体をあたためる作用を持ち、真武湯は水毒に対する効果もある。

いずれにしても、頭痛の種類や程度によっては市販薬でしのぐよりも、受診してドンピシャな薬を処方してもらったほうが手っ取り早く解決することが多い。漢方薬は体質によって合う・合わないがあるので、詳しい医師に相談するのがおススメだ。

頭痛や痛みへの対処はオンライン診療でも十分に事足りることが多い。時間の制約も少なく、雨の中をわざわざ出掛けていく必要もないのでお手軽だ。同時に、天気の動向と体調を併せてチェックする習慣もつけておきたい。頭痛などの現れるタイミングは個人差が大きいので、雨雲や低気圧の接近などと照らし合わせて、自分がどんな気象条件で体調悪化するかを把握するためだ。

頭痛持ちの人向けのスマホアプリもある。天気や気圧変動の予測だけでなく、頭痛時に記録をつけるようになっている。データがたまると、頭痛の発生しやすい気象条件を自動分析してくれて、“頭痛警戒アラート”が送られてくる。

「気象病」あるいは「天気痛」という呼び名は、医学的に確立された“疾病”ではない。発熱などの客観的にわかりやすい症状がないことも多く、「雨が降りそうなので休みます」とは言いにくいのがつらいところだ。天気も気分もなかなかスッキリとはいかないが、医師とアプリを上手に活用して乗り切っていただけたらと思う。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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