90年代米国が罹った「みんな子ども症候群」の正体 「スーパーマン」「バッドマン」がヒットした背景
さらには、エイズも蔓延していました。
もちろん恐怖はありましたが、当時は若かったので何とか耐えられるだろうと思っていたのと同時に、おそらく多くの若者にとって「すべては崩壊し、地獄に向かっているけど、私たちは楽しんでいる」とでもいうような不思議な高揚感があったのだと思います。だから当時の若者たちは狂ったようにパーティに興じていました。
とはいえ、それらの暴力のほとんどは、同じコミュニティに所属するもの同士のものでした。主に貧困層に属するそれらのコミュニティのあいだで起こる犯罪が多かったと思います。
そして、もう一つの「暴力」も人種間において根強く残っていました。60年代、70年代の公民権運動によって、表向きはアファーマティブ・アクションなどの差別是正の動きが進みました。ただし、それでも差別は根強く残っており、差別される側も、差別の是正が「逆差別」だと感じている側も、互いに水面下で不満を蓄積していました。
それが噴出したのが1992年のロサンゼルス暴動でしょう。
きっかけは、1991年にロドニー・キングという黒人男性が自動車のスピード違反で逮捕された事件でした。車から降りたキングに、ロス市警の警察官たちが殴る蹴るの暴行を加えたのです。彼らは起訴されますが無罪となったことで、それに反発する人たちによる大規模な暴動が発生しました。
警察による非白人への暴力事件は、私が子どもだった頃から繰り返し起きていました。それは別にめずらしいことではなかったのです。大きな違いは、かつてはカメラがなかったことです。ロドニー・キングの件が公になったのは、近所の人がそれをビデオカメラで撮影していたからでした。同じことはずっと前から起きていたけど、ようやく表沙汰になったということだと思います。
80年代には黒人のテレビスターも多く生まれるようになり、人種対立を越えた社会ができつつあるかに見えました。しかしロス暴動では、それがまだ儚い夢であることを思い知らされることになりました。
同じことは最近でも感じます。バラク・オバマが大統領となって素晴らしいことだと思った後に、2020年にはジョージ・フロイドがやはり警察官の拘束によって死亡した事件が起きています。まるで歴史は繰り返すかのようです。160年前の南北戦争における私たちアメリカの問題は現在でもまだ解決せず、その後遺症と戦い続けているのです。
大人になれない大人たち
私は、80年代から90年代にかけてのアメリカ人は、「みんな子ども」症候群であると主張しています。それまでの大人と違い、成長してからもビデオゲームやヒーローものの映画を楽しみ、若々しく見える服や髪形、果ては整形をするようになりました。
それを象徴していたのが、マイケル・ジャクソンの存在です。彼は整形手術を繰り返し、自宅には「ネヴァーランド」と呼ばれるファンタジーの世界を作り上げました。実際に子どもたちと住もうとしましたが上手くいかず、彼の傍らにいたのがチンパンジーだったというのは皮肉なことです。
もちろん、それらはこの時代に始まったことではなく、『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』(1981)などにその萌芽が見られます。しかし、それらは当初子ども向けだったものが、次第に最初から大人のための映画として作られるようになりました。
1980年代の「スーパーマン」シリーズや1990年代の「バットマン」シリーズ、そして現在まで続くその成功例が一連のマーベル映画や「ミッション:インポッシブル」シリーズなどでしょう。
ハリウッドは次第にそうした子ども=大人向けの作品を手がけるようになり、代わって優れた大人向けの作品を担うことになったのはケーブルテレビでした。HBO(Home Box O ce)の『ザ・ソプラノズ 哀愁のマフィア』などはそうしたものの一つです。さらに、コンピューターゲームやビデオゲームの浸透もそれに拍車をかけました。ゲームはもはや子どもの遊び道具ではなく、大人が本気で入れ込むものになったのです。
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