しかし、そんなプーチン氏が旧ソ連諸国に関心を向けるようになったきっかけは、当時の大統領府長官だったアレクサンドル・ウォロシン氏の執拗な説得だったという。ウクライナも含めた旧ソ連加盟国は「近い外国」とも呼ばれていたが、ウォロシン氏は、「近い外国」がロシアにとって戦略的に非常に重要だと説いた。
イラリオーノフ氏は、プーチン氏が内心では元々、ウクライナに対する強い攻撃的姿勢を持っていたとみている。その思いを表に引き出したのが、2003年のアメリカのイラク戦争だった。軍事介入でアメリカがフセイン政権を打倒したのを見て、「アメリカがこれを許されるなら、ロシアにもウクライナ侵攻が許される」と思ったのだろうと分析する。
駐ロアメリカ大使の言葉が背中を押した
さらに、結果的にプーチン氏の背中を押したのは、意外にも当時の駐ロシアアメリカ大使のウィリアム・バーンズ氏だったとイラリオーノフ氏は述べた。2005年、同氏はプーチン氏に対しウクライナなどのNATO加盟に反対との立場を示したのみならず、①ロシアの超大国としての地位を認める、②旧ソ連圏をロシアの勢力圏と認める、との立場を伝えた。これを聞いたプーチン氏は大喜びしたという。ウクライナがロシアの勢力圏にあるとアメリカが認めたことを意味するからだ。
バーンズ氏は現在、バイデン政権で中央情報局(CIA)長官を務めているロシア専門家だ。国際政治学者のヘンリー・キッシンジャー氏のように、外交面では現実主義者として知られる。ロシアの権益や勢力圏の存在を認めるリアリストだ。
このバーンズ氏のプーチン氏への発言はもちろん、ロシアによるウクライナを含めた旧ソ連圏への強硬策をアメリカ政府が容認すると言ったわけではないだろうが、プーチン氏はウクライナを攻撃しても国際社会が最初のうちは非難しても最終的に受け入れると勝手に判断したのだろう。
イラリオーノフ氏は2006年1月の段階で、クレムリン内で大掛かりな戦争計画ができていたと証言する。これを裏書きするように、この時期から、ロシアは兵器開発に精力を注ぎ始めた。さらに外貨準備の中で金の割合を増やし始めた。戦争で制裁を受けても金なら凍結されることがないからだという。
このイラリオーノフ証言を補強する別の証言が、同じ時期にユーチューブ上で飛び出した。ポーランドのアレクサンデル・クワシニエフスキ元大統領からだ。ロシア語も堪能な元大統領は2005年5月、ロシア戦勝記念日の式典に参加した際にプーチン氏と「ウクライナ問題で厳しい議論をした」と述べた。その際に「プーチン氏はすでにウクライナ攻撃の計画を持っている」と感じたという。
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