中国の「巨大EC商戦」に参戦する日本勢の深刻問題 残るロックダウンの余波、大幅値引きの弊害も

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618セールが行われている6月13日現在、京東のJDドットコムにおける資生堂の旗艦店で主力ブランド「SHISEIDO」の美容液(50ml)を注文すると、同量のおまけがついてくる。販売価格は860元(約1万7200円)。同じ商品が日本では1万3000円ほどで販売されており、価格は中国が上回るが、おまけを含めて考えると、618のほうが実質的に安く購入できる。

50ml購入すると同量のおまけがついてくるという、大盤振る舞いを行う資生堂(画像:JDドットコムの資生堂旗艦店より)

一方でコーセーの高価格帯スキンケアブランド「デコルテ」の場合、JDドットコムの旗艦店で売られている美容液の価格は国内とほぼ変わらない。化粧水は国内より900円ほど安い369元(約7395円)で販売されている。

高級路線を売りにしてきたはずの日系メーカー各社が、値引き販売を強化するのには訳がある。転売などで在庫を確保しているとみられる販売代行業者が安売り攻勢を強めているため、自社の旗艦店でも値引きやおまけ配布で対抗せざるを得ない状況に陥っているのだ。実際、先述の資生堂の美容液は、同じ商品が日本の価格より3割強安い399元(約8000円)で販売されている。

新規顧客を獲得するため、大型セール期間に大規模な値引きを行う手法は日本でも珍しくなく、ブランド認知を高めるには有効だ。ただ、“お試し価格”で獲得した客をロイヤルカスタマーに引き上げていくブランド戦略も同時に求められる。

出血を伴う改革が避けられない

事実上半額で販売するような過激なディスカウントプロモーションは、売り上げの拡大を図ることができる一方、ブランド価値の毀損に直結する。618やダブルイレブンでの値引き合戦が年々熱を帯びる中、イベントごとにまとめ買いをする顧客は増えるものの、ロイヤルカスタマーの獲得にはつながっていないのが実情だ。とくに資生堂は「値引きも含めたマーケティングコストの増加などにより、中国事業の利益率は悪化している」(証券アナリスト)。

6月10日からは訪日外国人観光客の受け入れが再開された。コロナ前まで各社の業績を下支えしていた中国人のインバウンド需要も、いずれは回復していくだろう。

だが、中国で日本以上の安売りが行われていれば、訪日中国人が戻ったところで以前のような「爆買い」には期待できない。ある業界関係者は「中国への商品出荷抑制など、出血を伴う改革が求められる」と指摘する。

実際、ポーラ・オルビスホールディングスは、傘下の高級化粧品「ポーラ」の市場価格を維持するため、2022年1~3月の間、韓国の免税店向けの商品供給を抑制した。同地域は中国の転売業者が多く買い付けに来る。

出荷抑制や値引き販促の縮小は、短期的に見れば売り上げの鈍化やシェア低下を招きかねない。だが、転売による安売りの横行や、ブランド価値の毀損を防ぐうえでは有効な措置となり得る。インバウンドが回復する将来を見据えて、日系メーカーは思い切った決断を迫られることになる。

星出 遼平 東洋経済 記者

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ほしで・りょうへい / Ryohei Hoshide

ホテル・航空・旅行代理店など観光業界の記者。日用品・化粧品・ドラッグストア・薬局の取材を経て、現担当に。最近の趣味はマラソンと都内ホテルのレストランを巡ること。

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