スシローの悪質おとり広告に映る大企業病の端緒 再発防止のためにはいったい何が必要となるのか

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スシローの話に戻しましょう。A社のたとえ話にスシローをもちろんそのまま当てはめられませんが、似たようなことがあったであろうと仮定するのは当たらずとも遠からずの話だと思います。

今回、テレビのニュースで何度もおとり広告と言われたスシローのCMの映像が流されていましたが、確かにとても美味しそうに見えました。仕事としては「〇」でしょう。そして店舗は売り上げと従業員のマネジメント、店舗利益で評価されるとしたらここも目標達成になったかもしれません。

だとすればスシローは会社が組織全体の制度に大きなメスを入れない限り今回のようなことは何度でも起こりえると私は考えます。ブレーキの壊れた官僚組織が不祥事を繰り返すのはこのようなメカニズムで起きるものだからです。

スシローが「消費者庁と調整のもと、広告表現の見直しや景品表示法に関する研修などを実施し、再発防止に努めてまいります」と謝罪しても、経営の専門家から見れば「それでは再発防止にならないだろう」と考えてしまうのはこのような理由からです。

これに対して最近同じように不祥事を起こした吉野家の病巣は少し性格が違います。吉野家も最近、立て続けに管理部門が問題を起こしています。ブランドマーケティングの責任者が「シャブ漬け」というNGワードを用いるとか、人事部が就活生を名前で差別するとか、お客様相談室が高圧的に顧客対応をするなど専門部署が専門性の観点で不適切な対応をしているという共通点があります。

この場合はむしろ対策はシンプル。症状としては配置転換などでふさわしい人材を置けばいい。

自分の部署だけ正しくあればいいという組織の病理

一方で、今回のスシローに見える大企業病の症状では各部署は専門性を正しく追求しているのですが、連携はしていない。自分の部署だけ正しくあればいいという組織の病理が問題を引き起こしているように私には見えます。その点が吉野家とは異なります。

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当たり前のことですが顧客から見れば、スシローの今回のことは「どこかの部門が悪かったから起きた」と考えるわけではなく、スシローの全部に悪印象を持ちます。

とりあえずきちんと謝罪をすることが任務の部署もあるのでしょうがその部署が「広告表現の見直しや景品表示法に関する研修」で治癒できると発言している段階でスシローの多くの幹部社員には「わが社の大企業病の病巣は相当に深いのだ」と気づいてほしいと私は思います。

自分たちの給料は上司が決める。ここからは一般論を交えますが、大企業病に陥っている会社の社員の中には、そう考えて行動する人がいます。多くの企業が創業時にそうだったように「本当は給料は顧客が払ってくれているのだ」という原点を忘れてしまうと、不祥事を起こす企業体質の大企業は、何度でもまた別の違った形で不祥事を起こし続けることはある。私はこのような現象を痛いほど知っています。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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