三井:国内の出来事では「円安によって日本の貿易赤字が膨らむこと」や「円安によって輸出は増えないこと」、「日本経済は2014年にかなり厳しい局面に陥ること」、「安倍首相は2015年予定していた消費増税を断念すること」などを事前に予想されていましたが、まったくその通りになっていますね。やはり、アベノミクスは上手く行かないのでしょうか?
アベノミクスは、最初から間違っていた
中原:私が先ほど述べた4つの視点から申し上げると、そもそもアベノミクスは失敗したというよりも、最初から間違っていたと考えるのが自然な回答になると思います。
というのも、経済の質は、刻一刻と変化しているからです。そもそもクルーグマンが唱える「インフレ目標」は、15年以上も前に述べられた理論です。ところが、2000年代に経済のグローバル化が加速するなかで、資源価格が高騰することによって「21世紀型インフレ」が始まってしまいました。
実際の経済はビジネスの世界で動いているので、ビジネスのルールも資源価格の高騰を前提にしたものに変わらざるをえなくなる。当然のところ、企業の対応も変化せざるをえなくなり、経済の中身も変わっていくということになる。だから、資源エネルギー価格が高騰する前の時代の理論を、今の時代にそのまま当てはめた経済政策が成り立つわけがなかったのです。ですから、結果は最初から見えていたわけです。
ただし、私は「安倍首相は本当に運の良い人だ」と思っています。なぜなら、原油価格の急落が想定していたよりも早く訪れたために、この原油急落がアベノミクスによる景気低迷や国民生活の痛みを緩和してくれるだけでなく、アベノミクスの失敗から政権が退陣に追い込まれるリスクまでも軽減してくれるからです。
三井:実は、私の周りにはアベノミクスを評価している人もいまして、アベノミクスに対してはどう評価してよいのかわからないのですが、中原さんがおっしゃるように日本の経済政策が間違った方向に進んでしまっているとすれば、なぜそうなってしまったのでしょうか?
中原:おそらくはリフレ派と言われる人々は経済学の権威を後ろ盾にして、思考停止の状態に陥ってしまっているのでしょう。
実は、これと同じような現象は中世から近世にかけての西ヨーロッパの歴史にも見ることができます。ルネサンスが起こる14世紀以前の西ヨーロッパは、経済的な繁栄においても学問のレベルにおいても、アラビア半島や中国に大きく劣っていました。それは、キリスト教における神の権威があまりに強かったために、自然科学や技術の発達が著しく妨げられてきたからです。
西ヨーロッパがあらゆる面においてアラビア半島や中国を追い抜き文明的に圧倒的な差を付けたのは、18世紀から19世紀にかけての時代になってからのことです。この時代の西ヨーロッパは、産業革命の影響で急激に近代化した時代、フランス革命の影響で自由主義が広がった時代でありますが、その時代の原動力となったのは自然科学を裏付けとした技術力の向上だったのです。
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