「イスラム国」の本質とは、いったい何なのか "時代錯誤"にみえる演出は戦略かもしれない

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本書では冒頭から、彼らが高度な会計技術を使って財務書類を作成しており、その内訳が自爆テロ1件ごとの費用にまで及んでいたと明かされる。好業績を挙げている合法的な多国籍企業のものと比べても、まったく遜色ないレベルの決算報告書であったという。つまり彼らは、潤沢な収入源を持ち、多くの外国人兵士を擁する多国籍武装集団であり、大規模な近代軍を統率し、よく訓練された兵士に給与を払う特別な組織なのである。

イスラム国がほかの武装集団と違っている2つの点

この分析からもわかるように、本書は「イスラム国」の大義、それ自体の是非や善悪を問うものではない。その目的を実行するためのポテンシャルがどの程度のものであるかを、ファイナンス、マーケティング、ブランディング、ガバナンスといったさまざまな角度から分析している。

この組織が歴史上のどの武装集団とも決定的に違うポイントは、近代性と現実主義という2点に集約される。それを支えているもののひとつが、テクノロジーと高度なコミュニケーション・スキルによって構成されるプロパガンダである。

多くの現代人は、テロのような正体不明の恐怖に対して不合理な反応をしがちである。だからこそ彼らは、恐怖の予言を拡散させるべくソーシャルメディアの活用に多大なエネルギーを投じているのだ。この種の予言は、広言することによっておのずと実現するということをよくわかっているといえるだろう。

要するに、「イスラム国」自身がわれわれのバイアスを逆手に取って情報戦略を駆使している点にこそ注視せねばならぬポイントがある。彼らの残虐な行為によって引き起こされた感情の高ぶりは、そのまま吸い取られて相手に利用されてしまうのだ。まるで、合気道の使い手と対峙しているようなものである。

ファイナンスとマーケティング、この2つの両輪がうまく機能することは、通常の企業活動であればそれだけでも十分かもしれない。しかし彼らの野望は、国家の建国というかつてテロリスト集団が夢見たことのないものであった。そのためには自分たちの正統性を示す必要があり、さまざまな歴史的事実から神話とレトリックを受け継いでいることも、著者はアナロジカルに読み解いていく。

かつてユダヤ人は、世界に散らばるユダヤ人のために、古代イスラエルの現代版を建国した。まさにそれと同じロジックで「イスラム国」は、スンニ派のすべての人々のために、21世紀のイスラム国家を興そうとしているというのだ。

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