これだけの被害者を毎年出し続けているから、フランスはいじめ問題を無視していると当時は糾弾されたのでしょうか。
例えばスカンディナビア諸国は10年以上にわたっていじめ問題への社会の意識を高め、いじめ予防のプログラムが作られてきたことによって、いじめを事実上根絶してきたと言われているのに対し、フランスはいじめ問題への対策に、それらの国々やカナダ、イギリスなどに比べてかなり遅れをとっていたのです。
というのはフランスの学校教育は学生たちの学校生活における幸福度より、知識の伝達をつねに優先してきました。また、前述したようにいじめ問題はタブーとされてきた風潮があり、実際に先生方がいじめに気がついても見て見ぬふりをするといった教職員や学校関係者の関与の欠如が、被害者の証言から明らかになっていたのです。
多民族国家ゆえ、いじめが人種や宗教的相違からくることもあり、ある意味日本よりも原因の根が深いこともあるかもしれません。ですが、それでもかつてある被害者の両親が学校に相談した際、学校側の及び腰の姿勢に、告訴もやむをえないと言うと、主任教諭からそのいじめ問題が学校名と関連付かないようにしてほしいと頼まれたという証言に愕然としました。こういった問題を隠蔽したがる風潮、体質の深刻さには言葉がありませんでした。
手をこまねいていたわけではない
もちろん、フランス政府はいじめ問題に何の手だても講じてこなかったわけではないのです。2011年の実態調査でいじめによる被害が明らかになったことで、2013年には学校での対処の仕方が国家の対策として規定されました。
その文書にはいじめが疑われる状況を6種類に想定し、それぞれの場合での初動対応の仕方や被害者、加害者の保護者との面談要領(被害者の保護者には学校の対応と児童保護の具対策を伝え、加害者の保護者には状況と懲罰内容を伝え、問題を修復する方法をともに考える)、また目撃者の保護者とも場合によっては面談することなどが明示してあります。
また、加害の危険度が高い場合には地方評議会や裁判所へ連絡することや、事後フォローの仕方も5項目にわたって述べられています。
確かに、この10年の間に学校でのいじめ撲滅の措置が取られていることを実感することがありました。
知人の話ですが、彼女の娘さんが中学生の頃、3人の女友達から急に意地悪をされたり、無視されることが続いたことがありました。娘さんからその事を聞いた彼女は、事情を説明するためすぐに担任の先生と面談の約束をとりつけたそうです。
彼女が面談で学校を訪れたとき、偶然にもくだんの生徒3人とすれ違ったのですが、彼女はいつもと変わらぬ態度でその生徒たちとあいさつを交わして、担任の先生との面談に臨みました。驚いたことに、その面談の数時間後には彼女の娘さんとくだんの生徒3人、担任の先生と生活指導の先生とを交えた面談の場が設けられたのだそう。
エスカレーター式のその学校でいじめ加害者のレッテルを貼られることがどういうことになるのか、3人のうちの1人はすぐに気がついたようで、彼女の娘さんにその場で謝りました。ほかの2人は、娘さんの態度に不満があったといった旨を口にしながらも、最終的にはもういじめをしないと約束したそうです。
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