住民しか知らない謎の鉄道「山万」車両基地の内部 人口1.8万人のニュータウン、4kmを14分で1周

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参加者から質問が上がった。「なぜ車両にエアコンがないのか」。山万の説明によれば、「駅間が短いのでドアの開け閉めを続けると十分な冷却効果が得られない」からだという。付け加えれば、乗車時間が短いという理由も挙げられそうだ。

車内にエアコンはない(記者撮影)
検修庫内の作業机は工具類がきっちり整理整頓されていた(記者撮影)

でも満員電車の車内ではたとえ短時間でもエアコンなしでは厳しいのではないか。こんな疑問を山万のスタッフにぶつけたら、笑顔でこう返された。「列車はさほど混んでいませんよ」。ユーカリが丘線のピーク時間帯における最混雑区間の混雑率はコロナ前の2018年度でも33%にすぎない。首都圏の鉄道では突出して低い。

利用者減に苦しむ多くの中小私鉄と同様に山万も利用者が低迷しているのだろうか。ところが、調べてみるとそんなことはなかった。ユーカリが丘線の輸送人員は開業から間もない1985年度は27万人にすぎなかったが、1990年代に50〜70万人台に急増、2012年度には80万人台に乗せた。鉄道事業の収益的には、利用者が増えている割には毎年数千万円〜1億円台の赤字が続くが、住民の生活の質を維持するインフラ費用として割り切っているのだろう。

「一気に高齢化」防ぐ開発手法

利用者増の背景には沿線人口の増加がある。5〜10年かけて開発するニュータウンはその間に大量のファミリー層が居住し、数十年経つと住民が高齢化し、過疎化や限界集落化といった問題が生じる。こうした事態を避けるため、山万はユーカリが丘を一気に開発せず、毎年200戸程度ずつの供給にとどめた。その結果、1989年に9387人だった人口は年々増加し、30年あまり経た今年2月時点で人口は1万8877人とほぼ2倍になった。ユーカリが丘ニュータウンの計画人口は3万人であり、人口はまだまだ増えそうだ。

ところが、現在の輸送人員は減少基調にある。コロナ禍は理由の1つだがそれだけではない。2016年度の84.5万人をピークに2017年度は82.5万人、2018年度は77.8万人。つまりコロナ禍の前から減少に転じている。ちなみにコロナの渦中にある2020年度は55.5万人だった。

ユーカリが丘線の駅は住民の利便性を鑑みてどの住宅からも徒歩10分程度で辿り着けるように設置されたが、ニュータウン開設から長い年月が経つうちに、その10分が負担となる人も出てきた。そのため、山万は2020年11月からコミュニティバスの運行を始めた。

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