名鉄とJRどっちが優位?「名古屋近郊」の競合区間 スピードや運賃、利便性を区間ごとに比較

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この金額を見ると、JRはドル箱区間の名古屋ー岐阜間で普通運賃・通勤定期とも名鉄より安い。つまり、割引率の高い通学定期では名鉄と勝負せず、運賃収入の多いお客さんのみを獲得した。まさに〝喧嘩(けんか)に強い頭脳集団〟の成功例といえよう。

一方、JRの大都市圏特定運賃導入区間では、普通運賃はもちろん通勤定期も名鉄より安い区間が多い。また、刈谷、安城、蒲郡など名古屋本線から枝分かれした支線だと、速さ・運賃ともJRの勝ち。岡崎はJRの駅が市街中心部から離れた南部にあるため、名鉄は普通運賃・通勤定期こそJRより高いが利便性で優位。だが、近年は複合型店舗が市内南部にも増えて新市街を構成し、名古屋本線より南に居住する人達はJRにシフトした。

令和時代の名豊間、どこよりも安いのは名鉄!

今、豊橋ー名古屋間の運賃は、普通運賃、通勤定期、通学定期とも名鉄はJRより安い。さらに割引切符でも消費税の税率アップに伴う改定で、名豊間往復タイプの土休日用は両社とも同額の1560円だが、平日用は名鉄1780円・JR1900円と名鉄の方が120円安くなった。回数券タイプもあって、名鉄の「なごや特割30」は30枚セットで2万6700円と1枚あたり890円(普通運賃1140円で250円お得)の勘定、JRの「名古屋⇔豊橋カルテットきっぷ」は4枚セット3560円で1枚あたり890円(同1340円で450円お得)。いずれも片道1回分は両社とも同額である。

こうしてみると、企画商品では両社に大差はないが、総合的には名鉄が安い。今、「どこよりも安いのは名鉄」だが、JRは企画商品に新幹線では最上級の割引率を誇る「新幹線変更券」の制度がある。この味を覚えた人は新幹線から離れられず、テレワークの浸透などで週1ー2日出社する人は〝JR派〟が多くなってきた。名鉄も特別車の割引オプション券を企画するなど、新たなる施策で企画商品の付加価値を高めたらいかがだろうか。

国鉄民営化後、名鉄の稼ぎ頭だった名古屋本線は苦戦が続いた。売上のへこみは空港アクセスを担う常滑・空港線、競合路線がないので運賃が割高な犬山線などでカバーしている。しかし、コロナ禍による空港輸送の打撃は想定外だった。

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2021年には〝減量ダイヤ改正〟を2回も実施。車社会の中、生活にさして支障がない昼間と夜間の列車を削減。終電の繰り上げも主要路線で実施したが、名古屋本線だけはわずかながら繰り下がった。だが、名鉄名古屋発の豊橋への終電はJRより約1時間も早い。

今、名鉄は地域密着企業として、厳しい時代も企業努力に懸命だ。名鉄の通学定期は全路線とも格安で、かつ大学生・高校生とも同額。ほぼ4往復すれば元がとれる勘定で、豊橋ー名鉄名古屋間ならその恩恵は大きく、家計を助けていることはとてもありがたい。

JRが客貨ともに日本を支える鉄道なら、名鉄は地域に貢献するコミュニティー産業だ。令和時代、名鉄はJRを補完し、きめ細やかな地域サービスで社会に貢献。不動産事業では駅を拠点に、地域に賑わいを創出する施策が注目されてきた。頑張れ名鉄電車……。

徳田 耕一 交通ライター

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とくだ・こういち / Koichi Tokuda

1952年、名古屋市生まれ、名城大学卒業。旅行業界の経験もあり、実学を活かし観光系の大学や専門学校で観光学の教鞭をとり、鈴鹿大学(旧鈴鹿国際大学)など複数校で客員教授を務めた。鉄道旅行博士(称号・旅行地理検定協会)、はこだて観光大使(函館市)、総合旅行業務取扱管理者。著者は『東海の快速列車117系 栄光の物語』(JTBパブリッシング)ほか多数。

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