全国知事会も3月30日に、原発に対する武力攻撃への備えを強化するよう磯崎仁彦官房副長官に求めた。
しかし、原発はミサイル攻撃に対処できるようには造られていない。山口壯・原子力防災担当相(環境相)は5月13日の記者会見で「ミサイルが飛んできて、それを防げる原発は世界に1基もない」と発言。「戦争が起こらないように外交上の努力を強めることが最大のポイントだ」と明言した。
原子力規制委員会の更田豊志委員長も、原発が武力攻撃を受けた場合の対処は困難だとしたうえで、「著しい炉心損傷を伴う事故に至る可能性は当然ある」と3月16日の記者会見で述べている。
原発事故の再発防止のために発足した原子力規制委は、新たな規制基準に基づいて原発の安全対策を審査している。しかし、更田氏は同9日の会見で「武力攻撃を仮定して審査しているわけではない」とも語っている。
リスク低減に必要な手立てすらままならない
ウクライナをめぐる問題で憂慮すべきなのは、「武力攻撃を受けているにもかかわらず、原発の稼働が続けられていることにある」(原子力資料情報室の松久保肇事務局長)。その理由について松久保氏は、原発に依存するウクライナの電力事情や、政府と電力業界の関係の深さを指摘する。5月12日時点でもウクライナでは15基中7基の原発が稼働しており、発電量の約7割を原発が賄っている。
こうした現状について、松久保氏は「原発なしでの電力供給が厳しいことに加え、原発の電力が外貨獲得の手段となっていることが背景にある。エネルギー相も原発企業の元副社長が務めている」と解説する。
原発の稼働を停止すれば、核燃料が発する崩壊熱の熱量は急速に減少し、危険性は低下する。しかし、リスク低減に必要なそうした手だてすらままならないのが実情だ。電力事情が厳しさを増す中、日本でも自民党や経済界は原発利用を拡大せよとの声を強めている。
ウクライナの危機的な現状を日本は直視すべきだ。
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