西欧に対する「イスラムの怒り」とは? 内藤正典・同志社大学教授に聞く(前編)

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「言論の自由」も二重基準であるので説得力を欠く

――事件後、国会ではフランスの議員達がラ・マルセイエーズを歌い、テロやイスラム過激派との戦いを宣言しました。

「武器を取れ市民、隊列を組め、進もう、進もう、汚れた血が我らの畑の畝を満たすまで」という歌詞。ふつうは歌わないとのことで、今回の事件で、右まで左まで一致団結したのだが、共和主義の高揚を感じる。

パリでの追悼大行進は「言論の自由」を掲げていたが、皮肉なことに、この行進に参加した外国の首脳たち、最前列でカメラに写ろうとしていた人たちがどれだけ、自分の国で言論弾圧をしていることか。特にイスラエルのネタニエフ首相が最前列にいたことは、中東諸国から厳しい非難の的となった。

参加者の中には、「私はシャルリ」というプラカードを掲げるほか、ペンを振っていた人も多かった。これはもちろん、「ペンにはペンを、言論には言論で対抗せよ」という意思表示。しかし、フランスは、中東やアフリカで何をやってきたのか。米国と一緒になって空爆することで、テロリスト以外の無辜の人々に犠牲者を出している。

イスラム教徒から見れば、これがダブルスタンダード(二重基準)でなくてなんだ、という怒りがある。フランスは過去の植民地支配についても国家として謝罪しておらず、こうした歴史認識も旧植民地の人々や移民のあいだに潜在的不満となっている。

日本人の多くはフランスを、自由で多元文化的な寛容な社会、美術館やブランド品に象徴される優れた文化の国と見なしているが、それは一面に過ぎない。こと世俗主義、政教分離、言論の自由などフランス共和国の原理に関わるテーマでは、妥協の余地がなく、7月14日(革命記念日)には戦車が街を走り回る戦闘的な面も併せ持っている。

多文化主義の国とフランスでは移民政策に違い

わたしはトルコの研究者なので、トルコがドイツを筆頭に西欧各地に大量の移民を送り出したことから、西欧でイスラム教徒が置かれた立場を、各地を訪問してフィールド調査してきた。

「政教分離」の論理は、欧州各国で異なるので、移民への対応の仕方はまったく異なる。

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