日本の事業会社:11年の見通し--格付けの安定化は続くが、改善の速度は不透明/その2・主要業界の見通し《ムーディーズの業界分析》
しかしながら、今後日本の鉄鋼メーカーが、上昇傾向にある原材料コストを顧客に十分転嫁できるかどうかは不透明である。鉄鉱石、原料炭といった原材料価格は変動が激しくなってきている。これは原材料仕入れの契約価格が、年間ベースからスポットマーケット価格をベンチマークとする四半期ベースに変更され、そのスポット価格が、直近ではオーストラリアの洪水の影響もあって上昇傾向にあるためである。
こうした状況に対応するために、日本の鉄鋼メーカーは、顧客との販売契約において、価格改定期間を年間契約から半期、または四半期ごとに改定すること、また基本的に原材料価格変動分を反映させることで合意した。しかし、実際には半期、または四半期ごとの価格交渉で鉄鋼メーカーの収益が決まるため、今後も変動する余地があり、したがって、利益率が圧迫されるリスクがある。
新日本製鉄とJFEホールディングスの格付けの見通しは、10年12月にネガティブであることを確認した。両社の格付けは、09年9月に安定的からネガティブに変更された。
海運業界
世界の海運業界の見通しは、安定的である。これは、業界全体が安定化してきており、近々に大幅な悪化は見込まれないであろう、とのムーディーズの見方に基づいている。ムーディーズは、新造船の供給により供給過剰状態が継続することは今後も業界の課題であるが、日本の海運会社の需給インバランスへの対応力は向上しつつあると考えている。
日本の海運会社の運航規模は大きく、かつ、その船種(サービス)は分散している。また、自動車や鉄鋼、石油メーカーなどの主要顧客と強固な関係を構築しており、不定期専用船事業においてはスポット市場の変動性に左右されない中長期契約比率を高く維持している。これらの中長期契約は、一般に運賃収入を安定させるだけでなく燃油費用も荷主が負担するため、海運会社の安定したキャッシュフローにつながっている。
これらの要因により、少なくとも理論上は、日本の海運会社が特定の市況に左右されない安定したパフォーマンスを可能にする体制につながっている。したがって、ムーディーズは、市況の変動によるネガティブな影響は、他の世界の海運会社と比較すると、ある程度緩やかであると見ている。