日本の事業会社:11年の見通し--格付けの安定化は続くが、改善の速度は不透明/その2・主要業界の見通し《ムーディーズの業界分析》

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 たとえば、ムーディーズは、シャープ(A2)の格付け見通しを10年11月に安定的からネガティブに変更した。これは、液晶テレビ・パネル市場が厳しい事業環境にある中で、同社が収益性を回復し、レバレッジを低下させることができるかについて不透明性が高まっているためである。

また、ソニー(A3)については、収益性の改善が見られ、強固な財務内容を維持しているものの、同社の格付け見通しは、引き続きネガティブのままとなっている。ムーディーズは、同社が中長期的に、テレビなどの主力製品における競争力を維持し、全体の収益性を安定化させることができるかに関心を持っている。

パナソニック(A1)の格付け見通しは安定的となっているが、パナソニック電工(A1)と三洋電機(A2)の買収によって悪化した財務内容の改善に向けた同社の取り組みを、ムーディーズは引き続き注視していきたいと考えている。

総合電機業界
 日本の総合電機業界の見通しは、概して安定的である。M&A投資の可能性という懸念があるだけである。

10年にムーディーズは総合電機5社すべて(三菱電機:A1、富士通:A3、日立製作所:A3、NEC:Baa2、東芝:Baa2)の格付け見通しを、ネガティブから安定的に変更した。その主な理由としては、事業構造改革の進展による事業リスクの減少、大規模なコスト削減を主因とする収益性の回復、利益の回復と有利子負債の削減による財務体力の回復が挙げられる。

11年には、事業構造改革のさらなる進捗により、収益性の改善が進むであろう。すなわち、社会インフラやITサービスといった競争力の強い事業に経営資源を集中し、一方で半導体やデジタル部品といった変動性の高い事業を縮小、もしくは切り離していくであろう。

円高の状況は制約要因にはなるが、自動車業界や家電業界とは異なり、総合電機業界にとっては外国為替水準の問題は限定的であろう。売上高に輸出の占める割合が小さいからである。また、円高に対応して各社とも海外生産を拡大し、売り上げとコストの通貨の違いに起因するミスマッチを減少させている。

また、中核事業を拡大するためのM&Aの可能性は高い。特に、事業構造改革が相対的に進んでいる発行体は、その可能性が高いであろう。クラウドコンピューティング事業や社会インフラ事業等が、主要なターゲットとなろう。

通常、将来のM&Aによる影響は、現在の格付け水準および格付け見通しには織り込まれていない。実施された場合、ムーディーズは当該M&A案件に関するその発行体の事業戦略と財務方針を分析し、新たに格付けおよび格付け見通しに反映させていくことになろう。

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