「電動キックボード」の不安が拭えぬ2つの法解釈 「免許不要」「ヘルメット任意」に混乱が生じた訳

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こうした欧米でのESG投資に起因する電動キックボード事業の急拡大を受けて、日本も欧米に後れをとるまいと動き出す。

ベースとなったのが、生産性向上特別措置法(平成30年6月6日施行)に基づく、「新技術等実証制度」だ。いわゆる“規制のサンドボックス”である。同制度を活用した電動キックボード実証試験が、日系ベンチャー企業を中心として、2019年後半から大学構内などの限定エリアで始まった。

さらに経済産業省は2020年、産業競争力強化法に基づき、ベンチャー企業による電動キックボードを新市場活動計画として認定した。規制緩和に向けて、公道も使ったトライ&エラーを積極的に行うというものだ。

産業競争力強化法に基づく実証実験で用いられる機体は特例が適用され、小型特殊自動車という扱いとされた。実証実験は、東京都渋谷区や千代田区など都心部で事業として始まり、その後に全国各地へと広がっていった。

ここで、一般の交通参加者にとって、不可解とも思えるようなことが起こる。

ヘルメット着用は義務なのか? 任意なのか?

認定された新市場活動計画の事業の中で「ヘルメット着用は任意」で行うケースが出てきたのだ。

電動キックボードは、道路交通法、および道路運送車両法において「原動機付自転車」(いわゆる原付)であるため、ヘルメット着用の義務がある。

電動キックボードは法的には原付だからヘルメットは義務となる。だが……(写真: オリバー / PIXTA)

全国の警察でも、電動キックボードの法的な位置づけについて、ヘルメット着用義務、ナンバープレートの取得(地元自治体への納税義務)、自賠責保険の加入義務など、原動機付自転車を正しく使用するための広報活動を進めていた時期でもあった。また都内では、取り締まりを強化する様子がテレビニュースなどで紹介されていた。 

一方で、産業競争力強化法に基づき全国の一部地域で行われた実証試験では、ヘルメット着用が任意となった。これにより、「電動キックボードって結局、ヘルメットはいるのか、いらないのか」という疑問を持つ人が少なくなかったといえる。

これと同時期に「電動キックボードは免許不要になって、年齢制限もかなり緩くなるらしい」という話が、メディアを通じて世の中に一気に広がった。

背景にあるのは、警察庁が2020年7月2日から開催してきた「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」による中間報告書(改正前の案)だ。同検討会では、道路交通法における電動キックボードの在り方が議論され、第9回(2021年11月16日)で、中間報告書のたたき台が示された。

次ページ国は議論を続けているが……
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