経済学ブームの陰に、経済学への不信あり ロバート・J・ シラー 米イェール大学経済学部教授


 最近まで経済学者は、一般向けの経済書を書くのを躊躇していた。そうした本の執筆は、経済学者の評価においてプラス材料にならない。経済学者たちは、一般向けの本には方程式も統計表も含まれておらず、学問的な関心を払うに値するまじめな研究ではないと主張してきた。

さらに悪いことに、経済学者を評価する委員会は、経済学の確立された理論に依拠しないような一般向け経済書を執筆することは学問的倫理に反すると考える傾向があった。

経済学は自然科学ではない

医学界が、認可を得ていない治療法を人々に勧める医者をどう判断するか想像してみるといい。医療の専門家は、一見効果的に見える治療法が緻密な調査を行った結果、効果がないこと、場合によっては有害であることがわかった例を幾度も見てきた。提案された治療法を検討する厳密な学問的プロセスが必要なのだ。そのプロセスを回避したり、検証されていない方法を勧めたりするのは、専門家として適切とはいえない。

長い間、経済学者も経済学とはそういうものだと考えてきた。

1960年にシカゴ大学がコンピュータを使って何百万もの株価データを作成し始めたとき、株価の特性に関する研究の多くは“効率市場仮説”に基づいていた。市場メカニズムによって、株式などのすべての証券の市場価格は本源的な価値を示すと考えられていたのである(したがってバブルなど起こりようがないと考えられていた)。この仮説に基づかない理論はすべて間違っているか、ペテンと見なされていた。経済学は株式市場の通俗的な理論を超克したと当時は思われていたのだ。

しかし、金融危機は“科学的な”経済学に致命的な打撃を与えた。それは単に経済学が危機を予測できなかっただけではない。経済学のモデルによれば、現在の規模の危機は起こるはずはなかったのだ。

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