経済学ブームの陰に、経済学への不信あり ロバート・J・ シラー 米イェール大学経済学部教授

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 こうした事態に対する一つの解釈は、経済学は数学的な分析に還元できないような経済活動に関する人間的要素を十分に考慮していなかったということである。

危機の到来に警鐘を鳴らした少数の経済学者は、経済学の専門的な論文を読むだけではなく、個人的な判断を理論に組み込み始めた。すなわち、過去の出来事と“直感的な”比較を行ったり、投機的取引やバブル、信頼の安定性に関する判断を加えたり、経済活動を行う人々の道徳的な基準を考慮し始めたのである。

こうした経済学者の手法は、創造的かつ合理的で、経営者にはなじみ深いものであった。だが、そうした経済学者の考え方が学会誌に掲載されることはなかった。彼らの主張の有効性を立証する科学的な手法が確立されていなかったからだ。

もちろん経済学は科学である。経済学者の研究とコンピュータモデルは重要である。しかし、経済学者のエドウィン・R・A・セリグマンが1889年に書いたように、「経済学は社会科学であり、倫理学であり、歴史科学であるが、自然科学ではない」のである。

私にとって、またほかの討論参加者にとっても、経済学のあいまいな部分を追究するということは、幅広い国民に正直に語りかけ、彼らの言葉から学び、彼らが送ってくるメールを読み、自分が主張する理論が本当に真実に近いかを、自己検証するということなのである。

Robert J. Shiller
1946年生まれ。ミシガン大学卒業後、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号取得。株式市場の研究で知られ、2000年出版の『根拠なき熱狂』は世界的ベストセラーになった。ジョージ・A・アカロフとの共著に『アニマルスピリット』がある。

(週刊東洋経済2011年2月11日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。写真と本文は関係ありません。
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