フランス大統領選「マクロン」「ルペン」決定的違い 最後に肉薄したルペンが当選したらどうなる?

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貧困層の擁護者を自称するルペン氏はまた、最低賃金を引き上げ、必需品(ガス、燃料、電気)に関する消費税を引き下げ、フランス、EU(欧州連合)加盟国、およびそのほかの国との自由貿易協定を見直したいと考えている。

民主主義に関しても、ルペン氏はマクロン大統領と対立している。フランスは「大統領制」で、憲法によりほかのG7のどの国よりも大統領への権力の集中度合いが高い。前任者と同じように、マクロン大統領はしばしば「1人で統治」を行い、選挙で選ばれたわけでもない少数のアドバイザーとだけで意思決定を行っていると非難されている。

フランスの選挙制度にも問題がある。有権者は、小さな政党を縮小させ、大統領の政党に有利となる「多数決制度」によって代表者を選んでいる。

例えば、ルペン氏の政党は、フランスの有権者のおそらく1/4から1/3の考えを代表しているが、577議席のうち8議席しか獲得していない。そこでルペン氏は自らが大統領になったら、国民議会において自らの政党を含め小さな政党の代表を増やすであろう「比例」制度へと切り替えることにより、「権力を国民に取り戻す」と主張している。

国民投票にも積極的な姿勢

ルペン氏はまた、国民投票をより頻繁に利用することによって、より直接民主主義に近づけたいとの考えを持っている。フランスでは国民投票は、2005年5月にヨーロッパ憲法批准の是非を問う際に行われたのが最後だ。

フランス国民は当時、時の大統領による提案を否決。このことはその後、選挙で選ばれた議員はいったい何を代表しているのか、ということに対するフランス人の関心を高めることとなった。

20日、ルペン氏はマクロン大統領とテレビで3時間にわたり討論を行った。最後に行われた5年前の討論よりは善戦したものの、個人的にはルペン氏はどの話題でも、マクロン大統領より有能と思えるには至らないと感じた。

サプライズでルペン氏が当選すれば、同氏は国内ではメディアや官僚、両議院から、国外では、国際機関やフランスの主な同盟国、EUのほかの26カ国の多くから反発にあう可能性がある。

ただし、孤立する中で、ルペン氏はある国では支持を得られるかもしれない。それは日本だ。コロナ禍で国境を閉ざし、「移民を認めない」と政府が公言している日本は、「ルペンのフランス」と近いと言わざるをえない。

レジス・アルノー 『フランス・ジャポン・エコー』編集長、仏フィガロ東京特派員

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Régis Arnaud

ジャーナリスト。フランスの日刊紙ル・フィガロ、週刊経済誌『シャランジュ』の東京特派員、日仏語ビジネス誌『フランス・ジャポン・エコー』の編集長を務めるほか、阿波踊りパリのプロデュースも手掛ける。小説『Tokyo c’est fini』(1996年)の著者。近著に『誰も知らないカルロス・ゴーンの真実』(2020年)がある。

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