「吉野家の二の舞」を避けたい会社に必要な対策 「トップより少し下」のジェンダー観にリスク

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先進企業の事例としてキリン・ホールディングスの例を見てみよう。同社では入社3年目の女性社員を対象にして、自分が将来どのようなキャリアを築いていきたいかを考え、整理し、意識づけすることを目的とした「マインドアップ研修」を行っている。

その際に、その上司(多くが男性)も一緒に研修に参加するのが特徴だ。それによって上司が部下のキャリア観を把握する機会となる。さらに、上司は「アンコンシャス・バイアス研修」を受ける。これにより、部下のキャリア意識と上司のアンコンシャス・バイアスによる認識のズレを防ぐことにつながる。

「よかれと思って」にひそむバイアス

アンコンシャス・バイアス研修では、たとえばどのようなケースを扱うのだろうか。幼い子どもがいる女性社員がいるとしよう。その社員に対し、上司が気を遣って負担を増やさないように仕事を減らしたとする。上司は「よかれと思って」仕事を減らしたのだが、当の女性は、もっと仕事がしたいと思っているかもしれない。この「子どもがいる女性は仕事の負担を減らしてほしいと思うに違いない」という考えは、アンコンシャス・バイアスである。

ほかにも「お茶出しをするのは女性」「女性といえば文系出身」「帰国子女ははっきり物をいう」などの意識があるとしたら、これらもアンコンシャス・バイアスにあたる。

このように、「男女平等」の重要性を上から説くことだけではなく「自分にアンコンシャス・バイアスがあった」と社員に気がついてもらうことが非常に重要なのだ。

この気づきを生むために、多くのアンコンシャス・バイアス研修で行われているのが「アンコンシャス・バイアステスト」である。テストでは、直感的に質問に答えていくことで、どのようなことに対して無意識の偏見を持っているかが数値化される。

このテストを受けると、「自分は平等な意識を持った人間だ」と思っていた人はショックを受けるという。重要なのは、「アンコンシャス・バイアスは誰にでもあり、なくなるものではない」という前提を理解すること。今企業が力を注いでいるのは、まさにこうした上層部の意識改革なのである。

吉野家とて、職場でのジェンダー平等に向けた取り組みをしていなかったわけではない。現場で働く人材は多様化しており、ダイバーシティー&インクルージョンの実現を目指し、女性スタッフの活躍に向けて力を注いでいたという。

元常務解任の発表とともに、コンプライアンス研修の徹底に取り組むと謝罪した吉野家HDであるが、そうした研修の中に、こうしたアンコンシャス・バイアス研修は含まれていたのだろうか。もしそれを徹底していれば、今回のような差別、偏見のある発言を事前に防ぐことができたことだろう。

(注1)【公開】13企業『インタビュー・レポート』│昭和女子大学 女性文化研究所 (swu.ac.jp)
(注2)上記調査における対象企業13社中、12社でアンコンシャス・バイアス研修は行われていた。
清水 直美 昭和女子大学女性文化研究所研究員

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しみず なおみ / Naomi Shimizu

1977年東京都生まれ。明治大学商学部卒業。学習院大学経営学修士取得。博士課程単位取得退学。専門は「人的資源管理論」。主な著書(共著)に『女性リーダー育成への挑戦 昭和女子大学女性文化研究叢書』(御茶の水書房)。学習院大学経済経営研究所客員所員を経て、成蹊大学、昭和女子大学講師。

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