ジェフ・ベゾスが無謀に思えたプライム進めた訳 1ドル札を90セントで売ると批判されても気にせず

拡大
縮小

早速ファイナンス・チームがこの案を具体的な形に落とし込みましたが、結果は恐ろしいものでした。配送料は高くつきますから、無料になれば顧客が喜ぶのは当然ですが、損益分岐点を割り込んでしまう可能性が高いというのです。12ドルの品物をひとつ買おうが、10ドルの品物をひとつ買おうが配送料は無料で、翌々日に受け取れます。(実際に)設計してみたら、ビジネスモデルとしては、あまりよいものだとは思えませんでした。

ですがそのアイデアが感情と直感を必要とするなら、そこにはリスクを甘んじて受け入れるだけの価値があり、そのまま直感に従って進めていくべきだと考えました。的確な判断は、どんなときでもそのようにして決定されます。

小さな失敗をたくさんしても大きな成功が1つあればいい

それはグループで、謙虚な気持ちをもって取り組むべき問題でした。間違った方向に進もうが悪いことではありません。それはまた別の問題なのです。私たちはたとえばファイアフォンをはじめとして、それ以外にもうまく機能しない、とんでもない品物を作りだしたことさえありました。これまで失敗に終わった実験をいちいち書き連ねるような余裕は、私たちにはありません。ですが小さな失敗をいくらしたところで、何かひとつ大きな成功を収めれば、すべての失敗などたちどころに補ってくれます。

世界を変えた31人の人生の講義
『世界を変えた31人の人生の講義』(文響社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

誰もが、プライム会員のようなチャレンジをしてみれば良いのです。もちろん最初はコストがかかります。プライム会員も相当な負担を強いられました。食べ放題プランを始めたら、実際にはどんなことが起こるでしょう? 最初にレストランに現れるのはいったいどんな人でしょう? 大食漢ばかりなら、先行きが心配になります。『そらみたことか、めいっぱい食ってやろうっていう馬鹿な連中が大勢押し寄せるぞって言ったじゃないか』

でも私たちにはある程度の予測がついていました。いろいろなタイプの顧客がやって来て、それぞれがサービスに満足してくれるだろうと。アマゾンプライムはまさに、その通りの結果をもたらしたのです。

デイヴィッド・M・ルーベンシュタイン カーライル・グループ共同創設者兼共同会長

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

David M. Rubenstein.

ボルチモア出身。1970年にデューク大学をスンマ・クム・ラウデという優秀な成績で卒業し、全米で最優秀の学生から成る組織、ファイ・ベータ・カッパに選出されている。
デューク卒業後はシカゴ大学ロースクールへ進み、1973年に卒業した。1987年にカーライルを共同設立する前は、ニューヨークとワシントンで弁護士業を営み、カーター政権下では国内政策における大統領の副補佐官を務めている。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT