「ロマンスカーVSE」デザイナーが明かす誕生秘話 岡部憲明氏「鉄道は動く建築」関空との共通点も

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ボリュームのある空間を生み出すため、とくに工夫が必要だったのは空調システムだ。エアコンの室外機は屋根上ではなく床下に設置しており、室内も天井にエアコンの吹き出し口はない。「天井の一番高い部分に向かって空気が吹き出し、その空気が真ん中でぶつかってゆるやかに落ちてくる」システムだ。

ロマンスカーVSEについてインタビューに応じる岡部憲明氏(記者撮影)

関空ターミナルビルは巨大空間で効率的に快適な空調効果を得るために同様のシステムを採用しており、天井にはダクトがないという。VSEの空調は「そのときにさんざん研究した内容を置き換えて考えた方法」だ。車内照明を間接照明としたのも、やはり天井に照明を設置していない関空ターミナルビルの経験が生きているという。

そして、座席もその1つだ。VSEの座席は眺望を楽しめるよう外向きに5度傾いた構造がユニークだが、車内を広く見せるために背もたれを薄くし、方向転換のための回転機構がある脚も1本にした。「座席はものすごく時間がかかる。車内空間の中で座席が占める割合はすごく大きいですから」と岡部氏は力説する。

製造したのは家具などで知られるオカムラ(当時は岡村製作所)。同社は関空ターミナルに設置する椅子を製造しており、岡部氏はオフィス用チェアなどの細やかな造りを鉄道車両に持ち込もうと考えたという。回転機構部分は鉄道車両用座席で定評ある天龍工業が担当した。これがきっかけとなって生まれた2社のコラボによる座席は、その後のロマンスカーにも続いている。

後継車で実現した発想も

今年で「デザインを始めてからちょうど20年」というVSE。その後、2008年には地下鉄直通対応の青いロマンスカーの60000形「MSE」、2018年には赤いロマンスカーGSEが登場した。

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後継車では、VSEの設計の際に実現できなかったことが可能になった例もあるという。1つは天地寸法1mというGSEの大きな窓だ。「VSEの当時は(車体に合わせて)カーブした複層ガラスは非常に高価でなかなかできなかったが、今はだいぶできるようになってきた」。また、GSEは座席下に荷物を置くスペースも確保した。座席のヒーターと方向転換させるためのモーターを座席下の縦シャフト内に収められるようになったためだ。「この発想はVSEのときからあったが、技術的に達しきれなかった。同じメーカーがやり続けてくれていることで進化した」(岡部氏)。

基本的に決まった路線を走る鉄道車両の設計は、一定の敷地に建てる建築に近いと岡部氏は言う。

「だからこそ車両自体も家の中にいるような安心感があって、寝ていても起きていても何をしていてもいい、ただ風景はどんどん変わっていく。鉄道の魅力はそこだと思うんです。そういう意味で『動く建築』という感じがする」。建築家の視点が鉄道車両のデザインに新たな可能性をもたらしたVSE。第一線は退いたものの、その精神は後継のロマンスカーはもちろん、幅広く鉄道デザインの世界に影響を与えていくことだろう。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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