「ロマンスカーVSE」デザイナーが明かす誕生秘話 岡部憲明氏「鉄道は動く建築」関空との共通点も
近年の鉄道車両は、さまざまな分野の設計者やデザイナーによる独自性の高い車両が増えた。私鉄の特急列車でいえば、建築家の妹島和世氏が手がけた西武鉄道の特急「Laview(ラビュー)」、ファッションデザイナーの山本寛斎氏による京成電鉄の「スカイライナー」、フェラーリなどで知られる工業デザイナーの奥山清行氏率いる「KEN OKUYAMA DESIGN」が監修した東武鉄道の「リバティ」などが代表例だ。
その先駆的な例といえるのが、建築家の岡部憲明氏が率いる「岡部憲明アーキテクチャーネットワーク」による小田急電鉄の特急ロマンスカー、50000形「VSE」だろう。岡部氏は2018年登場の最新型ロマンスカー、70000形「GSE」に至るまでそのデザインに携わり続けているが、初めて手がけた鉄道車両が2005年登場のVSEだった。
小田急のフラッグシップとして多くのファンに愛されながらも、2021年3月で定期運行を終えたVSE。ロマンスカーの伝統である展望席や、車体と車体の間に台車を配した「連接構造」を受け継ぎつつ、それまでの鉄道車両のイメージから大きく脱皮した電車はどのようにして生まれたのか。
提案は「車両の編成」から
1990年代から2000年代初頭にかけ、通勤客が増える一方で利用が低迷していた箱根観光特急。その復権に向けて開発されたのがVSEだ。次世代のロマンスカーを生み出すため、それまでの鉄道と異なる新たな分野のデザイナーを起用する――。そこで声がかかったのが岡部氏だった。
岡部氏は1947年生まれ。フランス・パリの総合文化施設ポンピドゥー・センターや関西国際空港ターミナルビルなどの建築物のほか、自動車や客船の設計にも携わった国際的な建築家だ。実は「子どもの頃は鉄道大好きで、模型もつくったりしていた」が、鉄道デザインの経験はなかった。
小田急の要求は、先頭に展望席を設けること、連接台車を採用すること、そして「箱根の旅にふさわしいときめきを感じる車両」とすることの3つだった。
外部の著名デザイナーを起用した車両デザインというと、その仕事は外観やカラーリングなどの見える部分が主体と思いがちだ。だが、岡部氏は基本的な構造や「目に見えない部分」も含めたトータルデザインに切り込んだ。最初に提案したのは外観や内装のイメージではなく「車両の編成」だったという。
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