「ロマンスカーVSE」デザイナーが明かす誕生秘話 岡部憲明氏「鉄道は動く建築」関空との共通点も

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VSEは展望室のある先頭車を両端に配した10両編成だ。それまで展望席のある連節車のロマンスカーはいずれも11両編成だったが、「それをなんとか10両にできないか」というのが最初の提案だったと岡部氏は振り返る。重視したのは、「外形をスムーズな1つの彫刻のように仕上げる」ために、どちら向きに走っても同じ条件となる前後対称の編成にすることだった。

また、両端の先頭車からそれぞれ3両目に当たる3号車・8号車にカフェなどのある車両を配置したのも岡部氏の案だ。カフェカウンターや側面の大きな窓が編成のアクセントになっている車両だが、カフェとともにトイレもこの2両にまとめて水回りの機構を集約し、パンタグラフや無線などの機能もすべて2両にまとめた。「複雑な機構は前から3つ目の車両に全部集めて、一般の車両に大きなボリュームをとれるように」との狙いからだ。

そして、やはり「一番難しかった」のは、最大の特徴といえる先頭車のデザインだ。約4mの限られた高さの中に展望席と運転席を設けなければならず、「このせめぎ合いが非常に重大」だったという。先頭の台車はほかの台車より車輪をやや小さくして床を低くするなどハード面の工夫とともに、乗務員の制服も工夫した。トータルデザインの一環だが、「何がやりたかったかというと、帽子の高さを縮めたかった。記章をロゴにしたら、それで3cmくらい稼げるんです」。少しでも空間を広く取るためのエピソードだ。

VSEといえば、そのイメージは「白いロマンスカー」だろう。実は、当初考えていたカラーリングはシルバー。だが、小田急関係者に「銀色は駅構内に入ったときに暗く見える」と言われ、「肌色っぽい柔らかさを持った白ができないか」と考えだしたのが、「シルキーホワイト」と呼ぶ現在のカラーだった。当時は明るいシルバー(の塗料)がなかったことも理由というが、VSEが「銀のロマンスカー」になっていた可能性もあるわけだ。

「ボリュームこそが居住性」

VSEのVは「ヴォールト」=ドーム状の天井の意味だ。その名の通り、客室の天井は高さ最大2.55mのアーチ型。「建築家の立場から居住性とは何かといえば、第一は空間にボリュームがあること」という岡部氏が重視したのが天井の高さだった。「このボリュームこそが最大限の居住性のよさを与えてくれると考えた」と岡部氏は言う。室内にボルトやナットを一切露出させないことにもこだわった。

そして、客室内には意外ともいえる建築物の経験が生かされている。「僕にとって最大のプロジェクトだった」という関西国際空港ターミナルビルだ。

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