説得がヘタな人と難なく納得させる人の決定的差 論理に頼らず人柄を併せ持ち感情にも働きかける

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それから、さらに2つの点について検討する。

1つは、どのようにすればわたし自身や依頼人が聴衆に好印象を与えられるかということ、もう1つは、どのようにして聴衆の心をこちらが望む方向へ傾かせるかということである。

弁論術として使われる説得の方法には、自分の主張を論理的に証明する方法(ロゴス)、聴衆に好感を抱かせる方法(エートス)、弁論の内容に合わせて聴衆の感情を誘導する方法(パトス)の3種類がある。

ところで、弁論家が自分の主張を証明するために使うことができる素材は、大きく分けて2種類ある。

1つは、弁論家の考えとは直接関係のない、その訴訟そのものに関わる情報である。こうした情報は所定の手順で扱われ、たとえば、証拠文書や証言、契約内容、拷問による自白、各種法律、元老院の決議、過去の判例、政務官の命令、法学者の意見など、弁論家が用意するのではなく、関係者から提示される情報はすべてこれに当てはまる。

もう1つは、弁論家自身の論理的な思考から考え出される根拠である。前者を使う場合には、情報をどのように扱うべきかを考える必要があり、後者を使う場合には、何が自分の主張の根拠となり得るのかを考える必要がある。[『弁論家について』2巻114-117節]

人柄による説得(エートス)

人を説得する要素は大きく3つあるが、エートス、つまり「人柄」もその1つである。
これは、弁論家本人、もしくは弁論家が弁護している依頼人がどのような人物なのかを演出して見せることによって、相手を説得する方法のことを言う。
その目的は、自分に対する好感や共感を聴衆に抱かせて、最終的には自分の主張に対する支持を得ることにある。また、聴衆を味方につけるために、議論で争っている相手側の人物をネガティブに印象づけることも有効である。
キケロは以下に紹介する『弁論家について』の1節(2巻182-184節)で、人柄を使った説得の効果について詳しく説明している。

さて、法廷での勝負できわめて重要な役割を果たすのが、弁護をする者と弁護されている者の人柄、普段の様子やふるまい、生活態度だ。

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