「ビンタ」だけじゃないアカデミー賞"驚きの瞬間" かつてないほど新味と多様性に満ちていた

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舞台に立ったプロデューサーのイベット・メリーノは、アニメ部門で受賞する初のヒスパニック系女性だった。「ステキな、多様性に満ちた人々を舞台の中心にすえたことを誇りに思う」と語った。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や日本映画『ドライブ・マイ・カー』などの作品賞をめぐる争いは、『コーダ あいのうた』の受賞で決着した。ニューヨーク・タイムズのベテラン記者ブルックス・バーンズは、「コーダ〜」が作品賞を得て、会場が手話の「拍手」に包まれているのを見て、こう書いた。

「私はこの瞬間を見るとは、つゆほども思っていなかった」

『ドライブ・マイ・カー』が成し遂げたこと

日本映画『ドライブ・マイ・カー』は、国際長編映画賞を受賞した。日本映画の同賞受賞は2009年の『おくりびと』(滝田洋二郎監督)以来13年ぶり。濱口竜介監督は、横に控えていた通訳の助けを借りずに英語でスピーチし、最後はオスカー像を振り上げて日本語で「取りました!」と叫んだ。スピーチを短く切り上げるようにバンドの音楽が鳴り始めていたが、こうしたアクシデントが許されたのも、感動の瞬間だった。

『ドライブ・マイ・カー』は日本映画で初めて、作品賞にもノミネートされ、それだけで「映画史的事件」だ。アメリカでも全米映画批評家協会賞で作品賞を含む4冠に輝くなど、国内外で受賞ラッシュであることを考えると、作品賞を逃したものの、アカデミー賞をも制覇したことになる。

映画研究者の池純一郎・コロンビア大研究員は、こう話す。

「3時間という見る人に体力を要求する作品。それでも、これだけ評価された理由は、ドキュメンタリー性ある撮影にある。複雑な感情を映像で表現するのは、映画の目標といえる。濱口監督は、まるで目の前で人が話しているかのようなドキュメンタリーのような手法で、人物の感情を手に取るように見せることに成功した」

従来のハリウッドでは、興行収入を膨らませるために、あらすじや人物の描き方などがビジネスの一部として築かれ、定着し、成熟してきた。そこで、『ドライブ・マイ・カー』のような作品が注目されたことは、1つの突破口ともいえる。

人種やジェンダーなどを含めた多様性を広げようとする動きも重なり、ハリウッドやアメリカ社会が変わろうとしているのを強く感じるアカデミー賞の結果だった。

津山 恵子 ジャーナリスト

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つやま けいこ / Keiko Tsuyma

東京生まれ。共同通信社経済部記者として、通信、ハイテク、メディア業界を中心に取材。2003年、ビジネスニュース特派員として、ニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。08年米大統領選挙で、オバマ大統領候補を予備選挙から大統領就任まで取材し、『AERA』に執筆した。米国の経済、政治について『AERA』ほか、「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」「HEAPS」に執筆。著書に『モバイルシフト 「スマホ×ソーシャル」ビジネス新戦略』(アスキーメディアワークス)など。X(旧ツイッター)はこちら

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