米国経済は、市場が騒ぐほど脆弱ではない 「2つの悪材料」を強調しすぎるマーケット

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1つは、原油価格下落の悪影響に対する懸念だ。WTI原油先物価格は、先週一時1バレル47ドル近辺まで下落したあと49.50ドル水準まで持ち直したが、週末は48.20ドル辺りまで軟化して引けている。1月8日(木)には、シェール開発業者であるWBHエナジー社が前日に破たんしていたと報じられ、投資家心理に影を落とした。

しかし1月7日(水)付の当コラム「ロシアは楽観できないが、株価は底固めへ」でも述べたように、原油価格下落は、ガソリンや燃料油の価格低下を通じて、家計や企業にプラスの面があるのに、そうした点がほとんど無視されているような株価の動きは、暗い面を見過ぎだと言える。

またもう1つの材料は、上述のように雇用統計は堅調な内容であったのに、そのなかで悪い数値を取り上げて悲観視していることだ。具体的には、12月の時間当たり平均賃金額が、前月比で0.2%減少したことが、悪材料視されている。

米国の雇用者全員の賃金総額は一貫して増加している

ただし経済全体の良し悪しを見るうえでは、雇用者全員の賃金総額が増えているのかどうかが重要だろう。

そこで、雇用者全員の1週間の賃金総額(=非農業部門雇用者数×1人当たり1時間当たり平均賃金額×1週間当たり労働時間)を計算してみよう。実はこの数値は、リーマンショックによる不況後はほぼ一貫して増え続けており、昨年12月の水準は、史上最高記録を更新している。

雇用者全員合計で受け取る賃金が増加し続ければ、全員が消費として使うお金の総額も増えるだろうから、時間当たり平均賃金額の1回の減少だけを取り上げて悲観視するのも、行き過ぎの面が強いと考える。

このように市場が好材料を軽視し、悪材料ばかりに反応するといった「暗黒面」に陥るのは、しばしば起こることだ。もともと投資家は、さらにもっと儲けようという果てしのない欲望や、このままでは多大な損失を被ってしまうという恐怖に、心理的に囚われやすい。ジェダイの騎士が、欲望や怒り、悲しみといった感情にとらわれて、シスの暗黒卿に堕ちていくようなものだ。

したがって当面は、まだ米国株や米ドル相場が、悪材料を大きく取り上げる地合いは続くかもしれない。しかし実体経済の悪化が進んで深刻な事態というわけではなく、心理要因が多いとすれば、先週後半のように、市場が明るい方向へ、いずれ踏み出すものと期待できるだろう。

今週の国内株式市場は、確たる材料に乏しいなか、目先は先週末の米国市場の軟調さが、心理的な重しとなって始まりそうだ。ただし日経平均株価が1万7000円を割れる局面があれば、割安感から打診的に買いが入ってもおかしくはない。

今週の日経平均株価は、いったん下押しした後に買い物が入って反発すると見込み、1万6700円~1万7500円を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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