日本の観光産業が急速に拡大した要因と、その過程で見えてきた課題は何か。観光戦略を推進してきた菅義偉内閣官房長官と、『新・観光立国論』などの著書で観光政策の重要性を訴えてきた元外資系証券会社の著名アナリスト、デービッド・アトキンソン氏。インバウンド対応の現状と今後の課題について、踏み込んだ議論を交わした。
──観光を国の政策として進めた背景には何があったのですか。
菅 第2次安倍晋三内閣が2012年に発足して以降、政府は一貫して日本経済の再生を最優先課題として取り組んできた。その中で、地方の所得を引き上げ、日本全体の活力を上げることを目的とした「地方創生」を掲げた。
日本では、人口と消費額の70%を東京圏以外が占めるというデータもある。地方創生を重要戦略に据え、そして観光政策と農業改革をその戦略を支える2本柱とした。
アトキンソン 「深刻な人口減少によって、近い将来に多くの町が消えてしまうのではないか」といわれていたほど、当時の地方は疲弊していた。私は09年に文化財の補修を手がける小西美術工藝社に入社して、全国各地を訪れた。その際に見た全国の神社は、どこも財政が苦しく、先行きについてとても悲観的だった。
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