匂い立つような刑事の凄みを映し出した1冊 『張り込み日記』を読む

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なにより、写真から伝わる、このふたりの「ホシをあげてやるぜ」という熱い意気込みは、撮影した渡部さんの「ふたりに犯人を捕まえさせてやってくれ」という祈りのごときあたたかい応援歌と表裏一体のような気がする。

と、内容は見てもらうとして、乙一さんのあとがき「昭和の事件に触れて思うこと」にこんな文章があった。

“向田刑事のご子息にお会いしてお話をうかがう機会があった。定年間近の向田刑事の肉声を録音したものが残っており、聞かせていただいたのだが、映画『東京物語』の笠智衆さんのお声や話し方にそっくりだった。印象的だったので、最後にそのことを書いておこうと思った。”

匂い立つ感覚を味わって欲しい

上の画像をクリックすると、版元のサイトにジャンプします。

最初にページを開いたら、「匂い立つ」という表現がぴったりな、渡部雄吉さんの写真を思う存分味わい、驚いてほしい。二度目は写真のディテールをじっくり見つめながら謎解きをしていく。三度目は、乙一さんがあとがきで種明かしをしている編集構成の妙を味わってみてはどうだろう。

四度目は、これまたあとがきに従って、笠智衆の脳内勝手アフレコでページをめくってみるのだ。映画を見るかのように、刑事たちの身体が躍動し始め、たばこの煙が揺らいで部屋に立ち上る。そして背景に映る街に、日本が駆け抜けた時代が、いつしか映し出されてくるにちがいない。

足立 真穂 HONZ

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あだちまほ / Maho Adachi

東京生まれ。大学を卒業後、「矢来町」のとある出版社に勤務。国内外の実用書から学術系の本まで、幅広いテーマの本作りを手がけている。書籍編集のかたわら、ロダンの有名な彫刻作品と同名の季刊誌にも創刊時から関わっている。趣味は落語、狂言、温泉。ときどきマラソンを走っているものの、タイムはいまひとつ。
 

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