従業員の心の状況を調べるストレスチェック制度が12月から義務化された。事業者側の注意点は何か、運用面での課題はないのか、総点検する。
「これはチャレンジなんだよ」。上司はそう言い、全力で目標達成を目指すよう求めた。
東芝の技術者だった重光由美さんは2000年、埼玉県の工場で液晶製造ラインの立ち上げにかかわった。工期は従来の半分という高い目標、相次ぐトラブル、長時間労働。半年でうつを発症し、休職期間を使い切った04年に解雇された。東芝の歴代経営トップが現場にチャレンジを呼びかけ、過剰な業績改善策を求めていたことは不正会計事件で明らかになったが、この“呪文”は社員の健康も損なっていたようだ。
最高裁判所は14年3月、重光さんが東芝を相手取り起こしていた損害賠償等請求訴訟で、会社側に極めて厳しい判決を下した。労働者の申告がなくても、企業は心身の健康に注意を払う義務があるとしたのだ。労働契約法が定める安全配慮義務に新しい基準を示した、エポックメーキングな判例だ。
画期的な判決を勝ち取った重光さんだが、心の不調は今も残り、完全に治癒したとはいえない状態だ。重光さんの代理人で過労裁判の第一人者である川人博弁護士は、「うつなどの精神疾患は、重症化すると治癒と職場復帰が本当に難しい。企業に今、最も求められているのは、精神疾患の発症そのものを回避する予防の取り組みだ」と指摘する。
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