東芝を大ピンチから救った、ある社員の物語 「草の根」ロビイングが会社の運命を変えた!

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角家:われわれが空港に着いたら赤い絨毯が敷いてあり、大人から子供まで日の丸と東芝のロゴマークを出して歓迎してくれたし、州知事が迎賓館に呼んで歓迎会を開いてくれたし、ヘリコプターまで用意して上空から街を見せてくれた。「農業州で製造業には最適な場所ではないかもしれないが、もし東芝のようなハイテク企業が来てくれたらほかの企業も続き工業州に脱皮できるだろうから、ぜひ来てくれ」と言われていたのです。

岩田社長いわく、「なんでオレが歓迎されることにこだわるか、わかるか。俺たちの世代は戦争に負けたんだ。日本人が米国に工場を造って、子供たちが“ジャップ、ゴーホーム”といじめられたら耐えられない。そういうことがないように、向こうからよく来てくれたと言ってくれるところに行きたい」。それでテネシーになるわけです。

3兆円の損害賠償請求という大ピンチ

桑島:そうでしたか。その後、テキサス州ダラス支店で勤務されていたときに、あの東芝機械事件が起こったわけですね。

角家:当時、ココム(対共産圏輸出統制委員会)という国際的な取り決めがありました。共産圏の国が軍事力を高めないよう、武器を共産圏に輸出してはまかりならんという自由諸国の協定です。これは条約ではなく紳士協定ですが、東芝がそれに違反したという疑いをかけられたのです。

そもそも日本の商社は、共産圏と危ない商売をしていたわけですよ。もしそれが表ざたになったら、トカゲのしっぽ切りができるように、ダミー商社を持っていた。その商社の人がココムに内部告発の手紙を出した。

東芝の子会社である東芝機械は、ソ連の原子力潜水艦のスクリューの表面を削る機械を輸出している。これはココム違反だと。

この機械があると四畳半くらいあるスクリューの表面を手で削らずに済むし、表面がなめらかになると水中でスクリューを回したとき気泡が少なくなる。この気泡が海中で破裂する音紋をソナーで聞いていると、どこの国の潜水艦が何マイル先に潜っているな、ということまでわかるのですが、スクリュー音が静かになるとそれができなくなってしまう。

結局、東芝はココム違反をしたことになってしまい、日本政府と東芝は3兆円の損害賠償という制裁法案を突き付けられました。ほかにも東芝は米国から永久追放だとか、過去に売った商品のアフターサービスはみんな無料でやれとか、とんでもない法案が次々に出てきた。このままでは私のダラス支店も潰れて、現地で雇用した80人の従業員も路頭に迷うことになります。日本政府も本社も効果的な対応策を持ち合わせず、「安全保障」という言葉にすくみ、絶体絶命でした。

桑島:いったいどうなるのでしょう。気になる続きは後編で伺いたいと思います。

(構成:長山 清子)

※後編は12月28日(日)に掲載します。

桑島 浩彰 青山社中CFO

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くわじま ひろあき / Hiroaki Kuwajima

1980年石川県生まれ。東京大学経済学部卒業。ハーバード大学経営大学院/行政大学院修了(経営学修士/行政学修士)。

三菱商事株式会社、ハーバード大学留学を経て、株式会社ドリームインキュベータ (日系戦略コンサルティングファーム)に入社。国内大企業のグローバル戦略立案及び実行支援に従事。2012年5月青山社中株式会社 共同代表CFO就任。

2014年アイゼンハワーフェロー日本代表。グロービス経営大学院MBAプログラム講師兼任(2015年1月より)。米国、中国、アジアなど日本の政治経済に関する海外講演多数。

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