マサチューセッツ工科大学の研究にあるとおり、経済成長を加速させるのは資本の節約と蓄積だけではなく、学習と革新によるところが大きい。経済の発展を支えるのは創造性にほかならないが、今日の経済における「長期停滞」の不安には、いかにして創造性を刺激すればいいのかという課題が潜んでいる。
最近では、最も必要なのはケインズ的な景気刺激策(たとえば赤字支出)なのだという主張が盛んに聞かれる。人々が創造的になるのは、何といっても仕事に励んでいるときであって、失業中には創造性は生まれてこない。
一方で、現在の新たな経済ダイナミズムと景気刺激との間には関連性はないと考える人々もいる。ドイツのメルケル首相は、ヨーロッパが必要としているのは「大規模なユーロの投入よりも、政治的な勇気と創造性だ」と述べている。
しかし実際には、どちらも必要だといえる。経済のダイナミズムを促進しようとするならば、ケインズ流の景気刺激策のほかに創造性を鼓舞する政策が必要となる。特に、充実した金融制度と社会革新を推進する政策が求められる。
個人と経済のダイナミズムを取り戻すには?
エドムンド・フェルプス氏は「個人、想像力、理解、そして国家に固有のイノベーションを促進するような自己表現を保護し、鼓舞する文化」を推進する必要があると論じている。彼は、創造性を抑圧しているのはコーポラティズムと呼ばれる公共哲学であり、金融その他の民間組織の徹底的な再編によってのみ、個人と経済のダイナミズムを取り戻すことができると考えている。
コーポラティズムという言葉は1930年代中ごろ以降に一般に使用され始め、70~80年代に広く普及した。ファシズムの哲学を非難するために批評家が用いたり、「新たな」コーポラティズムを称揚する者が好んで用いたようだ。
コーポラティズム的な考え方は今日でも生き残っている。倒産企業や余剰労働者を政府は保護すべきだと明確に主張しない人々も、コーポラティズムにつながりうるような同情の念を持っている。
コーポラティズムの重要な契機となったのは、ギュスターヴ・ル・ボン氏の1895年の著作『群集心理』だった。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら