調達対策だけでなく交渉カードを使う必要も

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横浜で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)が11月14日に終わった。

菅直人首相と中国の胡錦濤国家主席との会談も短い時間だが急きょ実現した。日中関係改善に明るい兆しも見える。だが、レアアース、尖閣諸島をめぐる日中の緊張関係は依然解消されていない。尖閣諸島問題は日中のナショナリズムを高進させている。一方、中国のレアアース輸出制限は、日本に特定の資源を一つの国に依存するリスクを認識させた。レアアースをめぐる問題と、今後の日本の対応策を考えてみたい。

省エネに不可欠な原料

レアアース(希土類元素)は、レアメタルの一種で、17種類ある。レアアースは産業のビタミン、ミネラルに相当する物質である。需要量は少ないが、なくては産業が成り立たない「戦略物質」である。たとえば、地球温暖化対策として、電気自動車、ハイブリッドカー、省エネ家電製品が脚光を浴びている。これらの心臓部となるモーター生産には、磁力が高く、耐熱性に優れたレアアースを原料とする希土類磁石が不可欠だ。

世界のレアアースの生産は年間12万トンにすぎないが、このうち97%を中国が生産している(2009年、米国調査会社推定)。中国の輸出量の56%が日本向け。

1990年まで中国のレアアース生産の占有率は低かった。ところが、90年代半ば以降、「レアアースを安く売ることで、他国の鉱山を閉鎖に追い込み、世界的な市場占有率を高めていった」(中村崇・東北大学多元物質科学研究所教授)という。

レアアースはウラン、トリウムといった放射性物質の副産物として取り出される。なぜ中国がレアアースを独占できたのか。「他の国にも豊富なレアアース資源があるが、中国の労働力が安いこと、鉱石を乱獲したこと、環境対策を十分にしなかった」(中村教授)ことが大きい。

環境対策も動機になり、10年から中国はレアアース採掘制限に踏み切り、乱獲を取り締まる。09年に年間5万トンあった輸出量も10年には3万トンに削減される。特に10年下期のレアアース輸出枠は前年同期比で70%も削減された。この結果、レアアース価格は暴騰する。

とりわけ希土類磁石の生産に不可欠なネオジムは5倍弱、同じくジオプロシウムは3倍弱に高騰している。レアアースは戦略物資だが、国は備蓄の対象にしていない。レアアースを購入する各メーカーの調達政策に任せている。

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