日韓のFTA戦略はなぜこうも違うのか--リチャード・カッツ

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 まず、日本では都市の住民よりも農家のほうが大きな政治力を持っているが、韓国ではそうではない。日本では人口の50%が都市部に住んでいるのに、都市部の参議院(地方区)の議席数は38%にすぎない。韓国では首都圏の有権者数は48%で、国会の議席の45%を占めている(韓国は一院制)。

次に、日本の官僚制度では、各省が自らの管轄に基づいて通商交渉を行っている。そのため、農水省は農産物での譲歩を拒否することでEPA全体を潰すことができるのだ。韓国では、強大な権限を持つ大統領が課題を設定し、外交通商省が交渉全体の責任を負う。韓国の農業省は議論には参加できるが、拒否する権限はないのである。

そして最も重要なことは、韓国は農業自由化を進めると同時に、農家に対する損失補填の所得支援政策を採用していることだ。前原外相は、日本も韓国と同じ政策を講ずるべきであると主張している。

小沢一郎氏は民主党の党首のとき、FTAを推進するために同様な所得保障政策を提唱していた。しかし今では、その立場を変えている。農業団体と民主党内の支持者は、所得保障は農家の支援のためだけに使うべきで、貿易自由化と組み合わせるべきではないと訴えている。

韓国の都市住民は農家に対して同情的である。彼らの祖父や祖母の多くは農民だからだ。ただ一方で、彼らは貿易拡大が自分たちの生活にとって極めて重要だということも知っている。農家支援のために、農家が貿易自由化を阻止するのを認める気はないのである。日本は韓国と同じ選択をできるのか--。それが民主党の重要な試金石となる。

(リチャード・カッツ =週刊東洋経済2010年11月27日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

Richard Katz
『The Oriental Economist Report』編集長。ニューヨーク・タイムズ、フィナンシャル・タイムズ等にも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。当コラムへのご意見は英語でrbkatz@orientaleconomist.comまで。

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