日韓のFTA戦略はなぜこうも違うのか--リチャード・カッツ
韓国がアメリカやEUなどの農産物輸出国と自由貿易協定(FTA)を締結しようとしているのに、どうして日本にはできないのだろうか。日本は現在11の経済連携協定(EPA)を締結しているが、その内容は自由化という観点から言えば十分ではない。同協定は日本の貿易全体のわずか16%をカバーするにすぎない。
これとは対照的に、来年、米韓FTAが米議会で批准されると仮定すると、韓国では七つの協定が発効し、FTA締結国との貿易が全体の36%を占めることになる。前原外相は、韓国のFTAとウォン安を指摘して、「日本製品は韓国製品に勝てなくなる」と警鐘を鳴らしている。サムスン電子の売上高は5年前にはパナソニックを12%下回っていたが、今日では35%上回っている。
EPAのメリットは輸出企業の支援だけではない。輸入を増やすことによって、日本の非生産的な国内部門を効率化もしくは淘汰し、日本の成長を促進することにもなるのだ。前原外相は、「本気になって国内市場を開放しないと日本の競争力はジリ貧になる」と語っている。
菅首相はEPAを推し進める政治的なリスクを犯したくないようにも見えるが、内閣改造でEPA賛成派の仙谷官房長官、前原外相、玄葉国家戦略担当大臣の3人を登用している。さらに、尖閣諸島をめぐる中国との対立が、EPA締結を後押ししている。通商協定は経済的な信念よりも、政治的な動機で結ばれることもある。菅政権は中国を牽制するためにアメリカがアジアにもっと深くかかわることを期待している。そのため菅政権は、アメリカが加わる環太平洋経済連携協定(TPP)を強調しているのだ。