課長が「一国一城の主」として動く老舗の凄い底力 難事を切り抜ける判断力はこうして培われた

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たとえば、海外からニット生地を仕入れる課なら「何をどれだけ仕入れるか」、海外から糸を仕入れて生地を作る課なら「どんな糸でどんな生地を作るか」、婦人服を企画・製造する課なら「どんな製品を作るか」を、それぞれの課長が独自に決めるという具合だ。

それぞれの課が、いわば「株式会社○○課」という風情で競って事業を行っている。課のメンバーから意見や企画を吸い上げ、プロジェクトを定める。必要とあらば課の垣根を越えて協力し、1つのものを作り上げる。すべて課長の采配だ。

「課別独立採算制」が切り開く未来

課は、そのときどきのニーズに応じて、適時、新たに設けられたり廃止されたりしている。これは社長判断で行われる。常時30ほどの課があり、いくつかの部に分けられているが、各部長の役割は課長たちと話し合って部の方向性を定めることと、予算や売上などの数字を管理することだ。ここでもやはり課長のプレゼンスが大きい。

こうした「課別独立採算制」が物語っているのは、上の指示を待つのではなく、自主的に動く人材を求める社風だ。重大な決定権を持つ課長のみならず、一人ひとりの社員が自分で考え、行動しなくては何も始まらない。現に研修を終えて課に配属されてきたばかりの新入社員に、「来週の出張予定は?」と尋ねることもあるほどだ。

新入社員の配属は、新入社員が研修期間中に希望する課の課長に自らを売り込み、一方、課長は課の欲する人材を自ら獲得するという流れで決定していく。これも主体的に動く人材を求める社風の1つである。

瀧定名古屋の業種は、本来的には繊維関連の商品の注文を受けて仕入れること、あるいは繊維関連の製品の注文を受けて作ること、要するに受注産業だ。しかし瀧定名古屋は、ただ取引先の注文に応じるだけにとどまらない。取引先とも話し合いながら、自ら、「これは売れる」というものをつねづね提案しているのである。

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たとえば、生地を製造するには糸を染めて織るという工程がある。「今年の流行色の生地」という取引先の注文を受けてから染料を調合するようでは、十分な供給体制を確保する前に、その色が流行しているシーズンが終わってしまう。特に婦人服の生地に顕著だというが、「求められてから供給できるまでの時間差」は繊維業界の課題なのである。

だからこそ瀧定名古屋は単なる受注産業に甘んじず、自分たちから積極的に提案する。先読みにリスクはつきものだが、取引先にとって「欲しいものが欲しいときにある」という状況を作っておけば、自社も取引先もビジネスが回りやすくなるのだ。

「自分たちが『これだ』と思うものを先んじて作るというところが、瀧定名古屋が同業他社と比べてもっとも特徴的であり、強みといえる点なのです」とは、瀧定名古屋の社員から聞かされた言葉である。

それぞれの課が自立的に事業を行う「課別独立採算制」、社員一人ひとりの自主性が発揮される体制が、江戸末期から連綿と続いてきた瀧定の今と未来を作っている。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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