賃金が上がらないのに「値上げ」日本の絶望未来 コロナ禍におけるインフレは格差拡大を加速

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ここでいう生活必需品は食料、住居、水道光熱費、被服および履物、保健医療、交通・通信と生活に欠かせないものを用いている。

賃金が上昇しない中、海外から入国した安い労働力と時給ベースで安値競争を強いられ、非正規雇用という不安定な雇用条件を突きつけられている国民が増えるわが国において、生活必需品の価格が上昇していくことは、低所得者たちをどん底に追いやってしまうことを意味する。

コロナ禍で消費はどのように変化したのか?

クレジットカードの決済情報を基にJCBとナウキャスト社が算出している、消費動向指数「JCB消費NOW」のデータを用いて、実際にコロナ禍における消費はどの品目で強く、どの品目で弱かったのかをみてみよう。

(画像:『スタグフレーションの時代』)

やはり、生きていくうえで不可欠な飲食料品、水道光熱費、医療といった支出はコロナ禍であっても減っていない。むしろ通院する機会が増えて医療への支出は増え、リモートワークなどで在宅する時間が増えたことで、水道光熱費やデリバリーの利用が増えて関連支出も増えたことがわかる。

一方で、娯楽、外食、宿泊、旅行といった余暇としての支出は大幅に減っている。低所得者からすれば、そもそも生活必需品に対する支出でほとんどの収入を使ってしまうため、コロナ禍で使うお金が減ったという印象はないだろう。

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かたや富裕層からすれば、平時では旅行に行ったり、高価な外食を楽しんでいたのに、コロナ禍でそれらに支出することができなくなったため、コロナ禍ではむしろ現金・預金といった資産が増えた。いわゆる強制貯蓄が発生したのだ。

そこで、多くの富裕層は使わなかったお金を株式市場、仮想通貨、不動産市場に投入したが、それらの市場は各国政府、中央銀行による異次元の金融緩和や財政出動によって支えられて堅調な値動きとなっていたため、出費が減ってお金が貯まり、さらに投資で増えるという好循環が発生した。

その結果、コロナ禍におけるインフレは格差拡大を加速させてしまったわけだ。

森永 康平 マネネCEO/経済アナリスト

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もりなが こうへい / Kohei Morinaga

証券会社や運用会社にてアナリスト、エコノミストとしてリサーチ業務に従事した後、複数金融機関にて外国株式事業やラップ運用事業を立ち上げる。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、各法人のCEOおよび取締役を歴任。現在は法律事務所の顧問や、複数のベンチャー企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。株式会社マネネTwitter

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