米国発「子どもの死の予防制度」日本導入への課題 虐待の防止にも効果、米国は1970年代に導入

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藤田さんは、AHT(乳幼児の虐待による頭部外傷)を例に挙げた。AHTのケースでは、警察が知りたいことは、誰がいつ何をして死に至らしめたのかという点だ。子どもは後ろ向きに倒れて頭をぶつけたのか、あるいは、誰かに激しく揺さぶられたのか。

「私たちが知りたいのは、どれくらい子どもを揺さぶったら重篤な事態になるのか、子どもが後ろ向きに倒れるときにはどういう要因があるのか、そういったことなんです。もし、兄弟が突き飛ばしたとしたら、ひょっとして『お兄ちゃんばっかり』『弟ばっかり』って思っている子かもしれない。その心のケアも大事だねという話になるし、周りに固い物を置かないほうがいいという話になるかもしれない。警察が知りたいことと違う」

そして、こう付け加えた。

「使い道が違うからこそ捜査情報がほしいんです」

「個人情報」の高いハードル

捜査情報の共有を妨げているのは、刑事訴訟法47条だと多くの関係者は指摘する。捜査情報の書類は、公判前に公表してはならないという規定だ。ただ、藤田さんはそれ以上に法や条例で守られている「個人情報」のハードルの高さを感じているという。個人情報保護法は「公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進」目的を例外事由としているが、情報提供を義務付けているわけではない。

例えば、事件性は認められなかったが異状死などの死因究明のために行う行政解剖。CDRが、この行政解剖の結果を求めた場合、医療機関や遺族の同意がなければ情報は出てこない。行政解剖は司法解剖ではないため、捜査情報に当たらないにもかかわらずだ。藤田さんの指摘は、CDRにおいて個人情報保護の制度が厚い壁となって立ちはだかり、捜査情報以外にも収集できない情報が多すぎるという点にある。

「自分が(子どもを)死なせたと思っている人から情報を取れずに、『(死の原因が)わかりませんでした』は、CDRの目的と離れています。『私はこの情報を渡したくない』と思っている人からこそ、情報を取れなくてはいけない。だから、CDRのために立法で情報収集の規定を作っていく必要がある。CDRの検証委員会から、情報を求める依頼が来た場合は、努力義務でもいいので出すように努めなくてはならないという条文があるといいと思います」

わが子の死の真相を知りたいが、情報を提供すれば自分の責任を問われかねないとなれば、進んで情報提供に同意する遺族は限られるだろう。医療機関や教育機関も同じだろう。だからこそ、法改正や新規立法が早急に望まれている。

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