「学習」「科学」休刊後、名門出版社が甦った理由 積極的M&Aで「奇跡のV字回復」を実現

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「どうやってV字回復を実現したのですか?」と、これまで何度も聞かれたが、秘策などなかった。ひたすら教科書どおりのことを愚直に行ったまでだ。

今、振り返って正しい経営判断だったと思えるのは、新規のM&Aを3年間凍結して、学研内部の改革に専念したことだ。もっとも、これはM&Aの資金がなかったためでもあり、M&A凍結と同時に塾の新規開設もストップさせた。塾グループには、今でも申し訳ないことをしたと思っている。

その一方で、学研ココファンのサービス付き高齢者向け住宅を、1年当たり15棟のペースで3年間開設した。いわば、なけなしの資金を1つの事業に集中させたということだ。大きな賭けであったが、私は最初から『学習』『科学』の販売チームで作り上げた学研ココファンが、生命線だと考えていた。

その後も年に15棟のペースで拠点を増やした結果、学研ココファンが中心となる高齢者住宅事業は、2021年9月期に約274億円の売り上げ、約13億円の利益があがった。

とにかく、就任からの3年間は地獄だった。「一生懸命やれば成功する」という甘い世界ではないと覚悟していたものの、精神的にも体力的にもギリギリの毎日だった。

長く真っ暗なトンネルを、わずかな光を求めて進むようだった。そして、M&Aを凍結し、内部を立て直し、学研ココファンという新規事業に投資するという3本立ての戦術が功を奏し、業績は徐々に好転していった。

このように学研は、さまざまな人の善意、努力、奮闘、そしていくばくかの運が作用し合ったことにより、再び息を吹き返した。

「出版」は、ものづくりの大動脈

幸いなことに、学研は「出版」というものづくりの大動脈を有している。この大動脈を起点に、人とのつながりの中で事業を発展させてきた。

教育分野でいえば、学研教室は「出版物に先生をつける」という、出版の延長線上で事業を展開してきた。そしてさらに、学研教室の生徒は教室を卒業した後、ほぼ全員が塾に行くことから、各県の名門塾に仲間になってもらおうと塾業界に進出した。

そして、全国100以上の塾が連携する一般社団法人教育アライアンスネットワーク(Networks of Educational Alliance〈NEA〉)へと発展。これが、さらにオンライン塾である「Gakken ON AIR」へとつながり、今日に至っている。

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